2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Disaster Prevention and Restoration after Disasters of Historical Buildings
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17H03373
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Research Institution | Tokyo Kasei Gakuin University |
Principal Investigator |
大橋 竜太 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (40272364)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 治 工学院大学, 総合研究所(付置研究所), 教授 (50317343)
永井 康雄 山形大学, 工学部, 教授 (30207972)
太記 祐一 福岡大学, 工学部, 教授 (10320277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歴史的建造物 / 保存 / 防災 / 災害復旧 / 水害 / 地震 / 安全 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、水害に焦点を絞った調査・研究を実施した。まずは、文献等にてヨーロッパにおける歴史的建造物の水害対策についての実態調査を行った。その結果、すでに水害の危険性のある地域では、ある程度、歴史的建造物の水害対策が検討されており、イコモス(ICOMOS:国際記念物遺跡会議)等で情報交換を行っていることが明らかとなったので、これらについて整理した。次に、フランスとオランダにおいて現地で聞き取り調査を実施した。両国の手法は、長い経験に基づいたきわめて現実的なものであった。すなわち、歴史的建造物の保護・保存に対して、社会全体として重要性を感じ、古くから対応を検討しているため、歴史的建造物に特化した対応は、文化財保護法等の歴史的建造物の保護のための法制度ではなく、都市防災等の法制度のなかで定められていることが多い。そのため、歴史的建造物の防災対策を検討するうえで、防災の専門家の意見が強くあらわれる結果となっている。特に、オランダなどの低地においては、洪水は大きな社会問題であり、すでにさまざまな対策が検討されており、歴史的建造物の水害対策は、その一環として実施されているので、特に、歴史的建造物の保存上、問題視されているわけではなかったが、緊急の際には保護されることになっている。このシステムは、わが国でも応用可能であろう。たとえば、わが国でも、洪水の危険性がある地域のリスク・マップはほぼできている。これに歴史的建造物の情報を加えるだけで、十分に効果が発揮できるものと考えられる。他方、オランダですすめられている研究としては、洪水で被害を受けた歴史遺構の保存方法(特に海水の被害からの復旧方法)の科学的な研究が特徴的であった。 同様の調査をオーストラリアでも実施した。オーストラリアの場合、洪水よりはむしろ火災等のリスクの方が深刻であり、その対応を中心に計画されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、イタリアを例として取り上げ、歴史的建造物の耐震対策に関して検討を加えた。また、平成30年度は、水害対策に焦点をあて、フランス、オランダの取り組みを中心に、調査・研究を行った。ヨーロッパ諸国では、歴史的建造物の保存に関して長い歴史があり、さまざまな点で経験を活かした対策がとられている。これらの対応は、理想を掲げるのではなく、きわめて現実的であることが特徴としてあげられる。また、歴史的建造物の保護・保存に対して、社会全体として重要性を感じ、古くから対応を検討しているため、歴史的建造物に対する防災対策は、文化財保護法等の歴史的建造物の保護のための法制度ではなく、耐震対策や洪水対策のための法制度のなかで定められていることが多い。そのため、歴史的建造物の防災対策を検討するうえで、防災の専門家の意見が強くあらわれる結果となっている。歴史的建造物の保護に携わる関係者は、防災上の知識に乏しいことが多く、この制度はきわめて有効であると考えられる。 一方で、今後、これらヨーロッパ諸国での手法の優れた点をわが国での応用の可能性を検討する必要性があるだろう。地震対策に関しては、イタリアの「ミリオラメント(Miglioramento)」の概念の導入が重要と考えられる。「ミリオラメント」とは、必要と考えられる安全性能を確保できなくとも、確保できないからといって実施しないのではなく、できる範囲で行うという考え方である。この導入に関しては、今後の課題となる。また、水害対策に関しては、地方自治体が作成しているリスク・マップに歴史的建造物の情報を加えること重要であると考えられる。また、防災の専門家との共同作業も課題となる。今後、これらの実現性に関して、詳細に検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
文化財や歴史的建造物の防災に対する関心は、世界的に高まっており、各国で喫緊に取り組むテーマとして認識されている。本年4月15日夜(現地時間)には、パリのノートルダム大聖堂が火災にあい、18世紀に修復建築家のパイオニアであるヴィオレ・ル・デュクによって復原・再建された尖塔をはじめとして、身廊部小屋組等が焼け落ちた。この不幸な出来事によって、文化財建造物を災害から守る必要が再認識され、人びとの文化財防災への関心が高まった。したがって、本研究はますます重要となり、今後、継続して進めていくべきテーマであると確信できる。 文化財の災害対策に関しては、課題も少なくない。パリのノートルダム大聖堂に関しては、フランス政府が肝入で防災計画を立てており、その成果が試される結果となった。火災の発生を知らせる煙探知機が設置されていたものの、火炎が大きくなっており、煙探知機が正常に作動したか、正常に作動した場合、煙探知機の取り付け位置が適切であったか等を検証する必要がある。一方で、建物内の動産文化財を救出するサーヴェージ・プランが新たに作成されていたが、この新たな試みがどの程度有効に機能したかどうかは検証すべきである。 ヨーロッパの文化財建造物の火災被害に関しては、スコットランドのグラズゴー美術学校の2度の火災に続くものである。両者とも、防火対策はとられていたにもかかわらずの被害である。したがって、これらの対策が十分であったかどうかを検討する必要があるだろう。 これらの研究成果に関して、建築保存の専門家が集まる日本建築学会の文化遺産災害対策小委員会と歴史的建造物保存制度WGの委員会等で発表していく予定である。特に、社会問題として文化財防災が着目されているので、これまではこの問題にあまり関心を示していなかった周辺分野の専門家へも、共同でこの問題に取り組んでいくことを提案していきたい。
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Research Products
(9 results)