2019 Fiscal Year Annual Research Report
Perturbation of redox balance in pathophysiology of diabetes
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17H04199
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
篁 俊成 金沢大学, 医学系, 教授 (00324111)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セレノプロテインP / ヘパトカイン / 酸化還元 / 褐色脂肪細胞 / 骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、SePが褐色脂肪組織(BAT)分化、および白色脂肪組織(WAT)のBAT化(ベージュ化)、および骨芽細胞と破骨細胞に及ぼす作用を、細胞レベルと個体レベルとで検討し、以下の知見を得た。 ① SePがBAT分化、および白色脂肪組織(WAT)のBAT化(ベージュ化)に及ぼす作用:初代褐色脂肪細胞でのノルアドレナリン(NA)応答性活性酸素種(ROS)産生はSePまたは呼吸鎖複合体II阻害剤の前処置によって消失した。初代褐色脂肪細胞へのNA処置によりミトコンドリアROSが増大すること、このミトコンドリアROSの増大はSeP前処置により解除さることを確認した。細胞温度プローブ分子を用いた検討では、NA処置は初代褐色脂肪細胞温度を約0.8℃上昇させた。SeP前処置によりこの温度上昇は消失した。褐色脂肪細胞においてlipoprotein receptor related protein-1 (LRP1)ノックダウンはSePタンパクの取り込みを著明に抑制した。FDG-PET検査によって高いBAT活性(SUVmax>3)を認めた健常成人男性43名では、SUVmaxと血中SeP濃度が負に相関した。 ② SePが骨芽細胞および破骨細胞に及ぼす作用:肝臓特異的SeP欠損(KO)マウスでも全身SeP KOマウスと同じ様に、高脂肪高ショ糖食を与えた際に起こる骨量の減少が軽減された。一方、卵巣摘出による閉経後骨粗鬆症モデルでの骨量の減少に全身SeP KOマウスと野生型間で差はなかった。それぞれのモデルマウスの肝SeP発現と血中SeP濃度はKOマウスで減少していた。高脂肪高ショ糖食を与えた全身および肝臓特異的SeP KOマウスの骨芽細胞活性化マーカーは、骨量減少の軽減に伴って野生型マウスより減少幅が小さかった。破骨細胞活性化マーカーに差は無かった。閉経後骨粗鬆症モデルにおいてSeP KOマウスと野生型マウスの骨芽および破骨活性化マーカーに有意差は無かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
セレノプロテインP (SeP)は生体内で強力な抗酸化作用を担うタンパク質である。申請者らはSePを2型糖尿病の病態を形成する肝臓由来生理活性分子「ヘパトカイン」として再発見した。申請者は、糖尿病関連ヘパトカイン「セレノプロテインP」が、2型糖尿病の病態であるインスリン抵抗性、血管新生抵抗性、運動抵抗性をはじめとする多様なシグナル伝達抵抗性を誘導することを示してきた。そして、その共通メカニズムに、「シグナル伝達に必要な活性酸素」を消去する「還元ストレス」が関与する可能性を提唱した。従来このような内因性還元ストレス因子はわかっていなかった。この仮説検証のために、本研究では、褐色脂肪組織(BAT)および骨におけるSePの受容体と作用機構解明を通じて、還元ストレスの臓器分化への寄与を明らかにするとともに、2型糖尿病に対する従来の概念に依存しない新しい治療開発の基盤とすることを目指す。本年度は、SePが褐色脂肪組織(BAT)分化、および白色脂肪組織(WAT)のBAT化(ベージュ化)、および骨芽細胞と破骨細胞に及ぼす作用を、細胞レベルと個体レベルとで検討し、「研究実績の概要」に示す知見を得た。昨年までの実績と合わせ、当初の仮説通り、SePは還元ストレスを介して、BATではカテコラミン抵抗性、骨芽細胞ではIGF-1抵抗性を惹起して、それぞれ熱産生障害、骨形成障害をもたらすことを証明した。次年度には、研究の結論を強固にするための確認実験を重ねる予定である。さらにヒトでの検証をBATで終了し、骨では次年度に解析完了予定である。 従来、「酸化ストレスがインスリン抵抗性や動脈硬化の基盤病態を形成する」概念をもとに抗酸化薬が臨床応用されているが、仮説通りの治療効果を上げていない。そのパラドックスの根幹となる分子機構を明らかにできる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には、今年度までにほぼ明らかにした研究の結論を強固にするための確認実験を重ねる予定である。 1. 褐色脂肪組織特異的SeP受容体欠損マウスの表現型解析 SeP受容体を褐色脂肪組織特異的に欠損したマウス(flox-受容体ノックインマウスとUCP1-Creトランスジェニックマウスの交配により作成)とflox-受容体ノックインマウスの表現型を比較検討する。1)通常食および高脂肪高ショ糖食を負荷し、体重と体組成の推移、耐糖能、代謝異常、高インスリン性状血糖クランプ検査による臓器特異的(肝臓、骨格筋、脂肪組織)インスリン抵抗性を評価する。2)寒冷刺激または、β3アゴニスト投与を行い、体温、震え動作、褐色脂肪分化および白色脂肪のベージュ化、UCP-1等の褐色脂肪マーカーの発現を比較する。3)SeP投与による褐色脂肪分化および白色脂肪のベージュ化とUCP-1活性阻害作用を調べる。 2.骨芽細胞および破骨細胞、各特異的SeP受容体欠損マウスの表現型解析 骨芽細胞および破骨細胞それぞれ特異的に欠損したマウスをflox-受容体ノックインマウスとOsx-CreトランスジェニックマウスおよびLysM-Creトランスジェニックマウスの交配により作成し、表現型を解析する。1)通常食および高脂肪高ショ糖食を負荷し、体重の推移、耐糖能と共に骨量、骨強度、骨代謝マーカーに対する影響を観察する。2)各マウスに卵巣摘出手術(OVX)を行い、閉経後骨粗鬆症モデルによる骨量、骨強度、骨代謝マーカーの変化を調べる。3)上記のマウスにSeP投与し、効果がどの程度軽減されるか骨量、骨強度、骨代謝マーカーを指標に精査する。
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