2018 Fiscal Year Annual Research Report
中央ユーラシア高地民・低地民の相互交流と騎馬遊牧社会の成立基盤に関する考古学研究
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17H04533
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
久米 正吾 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30550777)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 佳樹 金沢大学, 先端科学・社会共創推進機構, 博士研究員 (70413896)
早川 裕弌 東京大学, 空間情報科学研究センター, 准教授 (70549443)
藤澤 明 帝京大学, 付置研究所, 講師 (70720960)
覚張 隆史 金沢大学, 新学術創成研究機構, 特任助教 (70749530)
新井 才二 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (40815099)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 遺跡編年 / チュスト / アンドロノヴォ / 高地環境 / 安定同位体 / 合金 / 鉛同位体 / 土器残留脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央アジア東部地域における農耕牧畜社会の成立過程について、地理的環境の異なるキルギス、天山山中及びウズベキスタン、フェルガナ盆地にそれぞれ所在する考古遺跡の比較調査を実施することによって明らかにすることを目的とする。平成30年度は以下の調査を実施した。 (1)フィールド調査:5月~6月にかけてウズベキスタン、ダルヴェルジン遺跡において基本層序を確立するための発掘調査を実施し、前2千年紀後半の約500年間の連続的な文化層を詳細に記録した。同時に、土器、磨製石器、青銅器、動植物遺存体等の出土標本や建築遺構を層位的に収集、記録し、同遺跡における農耕牧畜の成立過程を長期的な観点から多面的に調べるための基礎資料を整備した。また、9月にキルギス、モル・ブラク1遺跡の発掘調査を実施し、前回の発掘終了面であった前2千年紀初頭より更に下層から居住痕跡を検出した。この結果、農耕牧畜を伴った天山山中の高地環境開発が前3千年紀まで遡る可能性の検証が今後の新たな課題となった。 (2)出土標本の理化学分析:昨年度、キルギスでの標本調査を重点的に実施したため、今年度は新たに標本が得られたウズベキスタンでの標本調査に移行した。特に重要な成果は、動物骨の炭素・窒素安定同位体分析を実施し、家畜の食性を解析して同遺跡での家畜への給餌特性を明らかにしたことである。もう1点重要な成果は、ダルヴェルジン遺跡出土青銅器のほかウズベキスタン国立歴史博物館所蔵の青銅器の蛍光X線分析を実施し、合金成分に関する情報が得られた。これらの成果を踏まえ、来年度からウズベキスタンとキルギス双方を対象とした各種標本の理化学分析結果の比較研究を推進し、地理的環境の異なる2地域での農耕牧畜社会の発展過程について議論するための基盤が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ウズベキスタンとキルギスいずれのフィールドにおいても農耕牧畜導入期の考古記録を順調に収集することができた。ウズベキスタンではダルヴェルジン遺跡の第1次発掘調査を開始し、基本層序を概ね確立した。また、各文化層の炭素年代測定も実施し、フェルガナ盆地最古の農耕牧畜文化であるチュスト文化の絶対年代の分布範囲を初めて明らかにすることができた。キルギスでは、昨年中断したモル・ブラク1遺跡での発掘調査を再開することができ、2000年を超える同野営地遺跡の居住史が年代的に更に遡ることを明らかにした。 各種理化学分析も予定通り現地でのサンプリングを遂行し、国内に輸送して分析に供した。今年度からはダルヴェルジン遺跡出土の豊富な土器資料を対象として、昨年度までは未実施であった土器残留脂質分析など新たな分析手法も適用し、消費食物や調理手法の観点から動植物利用について多面的に調べる試みを開始した。また、ウズベキスタン国立歴史博物館所蔵のアンドロノヴォ系青銅器の分析にも着手し、昨年度実施したキルギスでの出土資料の分析結果と対照することによって、青銅生産技術や原料産地の比較研究を推進することが可能となった。 成果公表も順調であったと確信する。今年度の発掘調査の予備成果については、日本及び現地国で開催された研究集会及び国際ワークショップ等の多様な研究集会で迅速に公表した。また、キルギス、モル・ブラク1遺跡出土の植物遺存体の分析結果を海外研究協力者との共著で国際誌において発表した。 以上を踏まえ、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)フィールド調査:ウズベキスタン、ダルヴェルジン遺跡では、基本的な層序確認は今年度達成されたため、遺跡の平面的な遺構分布を明らかにするための発掘区を新たに設定し発掘を継続する。なお、同遺跡は25hを超える大規模集落のため発掘調査で確認できる範囲には自ずから限界がある。このため、地下探査を新たに導入し発掘区外の地下構造物を補完的に記録する。これにより、遺跡内広域での遺構分布状況を確認し遺跡構造の詳細な解明に努める。また、遺跡の立地特性を明らかにするためにフェルガナ盆地内の農耕牧畜導入期前後の遺跡動態のデータ収集を実施し、初期農耕牧畜集落の立地特性や立地環境について調べる。 キルギスではモル・ブラク1遺跡の深掘り発掘を継続し、遺跡の居住開始年代を明らかにする。発掘区の下層から採集される遺物は極めて散発的と予想されるが、回収標本を多面的に解析し、野営地の初期利用の特性について調べる。また、今年度実施した同遺跡周辺の踏査では青銅器時代以降と目される墓や石列遺構が数多く確認された。これらの遺構の発掘を試験的に実施し、山地内の空間利用の多様性に関する情報を来年度は収集する。 (2)標本調査:各種理化学分析については、現地国でのサンプリングが概ね終了したため、国内での分析と結果のとりまとめに移行する。分析結果の状況や不足分については、必要に応じて新たなサンプリングを現地で実施する。そのほか、ダルヴェルジン遺跡から出土した多量の土器や磨製石器等の遺物や動植物遺存体の記載と分析を継続する。 (3)成果の公表:発掘調査報告及び各種理化学分析の成果について、国内外の学会等での発表や出版を進める。
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[Presentation] Paleo diets reconstructed from food residue in pottery in Lower Yangtze area using lipid analysis and compounds-specific and bulk stable isotope composition2018
Author(s)
Miyata, Y., Kubota, S., Kobayashi, M., Nishida, Y., Horiuchi, A., Miyauchi, N., Yoshida, K., Sun, G., Wang, Y. and Nakamura, S.
Organizer
Eighth Worldwide Conference of the Society for East Asian Archaeology (SEAA8)
Int'l Joint Research
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