2019 Fiscal Year Annual Research Report
Early interaction between highlanders and lowlanders in Central Eurasia: archaeological research on the economic basis of the emergence of mounted pastoralist societies
Project/Area Number |
17H04533
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
久米 正吾 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30550777)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 佳樹 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (70413896)
早川 裕弌 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (70549443)
藤澤 明 帝京大学, 付置研究所, 講師 (70720960)
覚張 隆史 金沢大学, 新学術創成研究機構, 特任助教 (70749530)
新井 才二 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (40815099)
山口 雄治 岡山大学, 埋蔵文化財調査研究センター, 助教 (00632796)
辰巳 祐樹 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (50824398)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 埋葬 / 古人骨 / 囲壁 / 放牧 / 遺跡動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央アジア東部地域における農耕牧畜社会の成立過程について、地理的環境の異なるキルギス、天山山中及びウズベキスタン、フェルガナ盆地にそれぞれ所在する考古遺跡の比較調査を実施することによって明らかにすることを目的とする。令和元年度は以下の調査を実施した。 (1)フィールド調査:7月~8月にかけてキルギス、モル・ブラク1遺跡の発掘調査を実施し、昨年から継続発掘したトレンチ1において地山層となる礫層を確認し、同遺跡における居住年代の上限を確定した。また、遺跡周辺の土地利用の複合性を調べるために、居住地から200mほど南に位置する墓域の調査を実施し、墓を1基発掘した。発掘の結果、盗掘を受けていたものの頭骨を含む埋葬人骨の一部が回収できたため、今後、古人骨の証拠に基づいて遺跡利用の特性について議論する試料基盤を得た。9月にはウズベキスタン、ダルヴェルジン遺跡において発掘調査を実施し、遺跡内での空間利用の変異を調べるために、新たにトレンチを2つ設定し、出土標本や建築遺構を層位的に収集、記録した。中でもトレンチ6においては、厚さ3.5mに及ぶ外壁を有する建物を確認した。下層では遺構の残存状況も良好であるため、今後、この建物と出土標本を詳細に調べることによって、同遺跡での居住や生業に関する各種の考古記録が得られると期待される。また、発掘と併行して実施した地下探査では、集落を巡る囲壁の形状分布について詳細な記録を作成することができた。 (2)標本研究:今年度の発掘調査で出土した土器等の遺物及び動植物遺存体については、順調に記載研究を実施し、遺物の層位的変化や出土動植物の同定が進捗した。自然科学分析では、特にキルギス出土標本の土器残留脂質分析が進捗し、山腹の野営地に居住した人々の消費食物及び調理行動に関する具体的証拠が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キルギスとウズベキスタンいずれのフィールドにおいても、今年度目標として設定した調査項目を全て実施することができた。 キルギスでは、特に野営地の利用開始年代が明確になったことによって、標高約2400mの内陸天山山脈斜面に立地する遺跡周辺での初期農耕牧畜民による高地環境開発のプロセスと放牧行動に関して新たな見解が得られた。 ウズベキスタンでは、遺跡利用の空間的変異や囲壁に関する情報が蓄積されたことにより、フェルガナ盆地初期農耕牧畜村落の空間構造の詳細な把握に向けた研究が大幅に進捗した。そのほかにも、特に出土した植物遺存体の同定が進捗したことにより、初期の栽培植物に関する詳細なデータが初めて得られ、調査地における初期農耕の特色に関する知見を大きく前進させることができた。さらに、昨年より開始したウズベキスタン領フェルガナ盆地の遺跡分布に関する長期変動データの取りまとめも進捗し、初期農耕牧畜村落及びそれ以降の集落の立地環境や立地特性に関する解析も進んでいる。この遺跡動態解析は今年度から本格的に取り組んでいるものであるが、集落の水利環境等に関する新たな知見が得られることが期待され、本研究課題の成果を当初計画以上に前進させると考えている。 なお、3月に予定していた古代の金属資源開発に関するウズベキスタンでの現地調査はキャンセルせざるを得なくなったが、昨年度実施したキルギス出土の青銅器標本の自然科学分析に基づく青銅器の生産と流通に関する研究成果を迅速に公表することにより、それをおおむね補った。発掘調査成果等については、例年通り、国内外で開催された幅広い分野の研究集会において公表した。 以上により、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)フィールド調査:キルギス、ウズベキスタンいずれの遺跡においても新たな課題が得られており、その解明に向けた発掘調査を継続して実施する。ただし、今年度末現在発出されている両国への入国制限が延長される事態が生じた場合、海外調査はキャンセルし、下記の国内研究に専念する。 (2)標本研究:考古遺物全般については、これまで記載研究した成果の取りまとめを実施する。各種自然科学分析は、これまで日本国内に輸送した標本を対象として実施する。特に今年度輸送したモル・ブラク遺跡の古人骨標本を対象とする安定同位体及び古代DNA分析を推進し、農耕牧畜集団の調査地への移入状況や系統関係あるいは食物消費の特質を調べる。また、未実施のダルヴェルジン出土土器試料の脂質分析を推進し、今年度新たに得られた植物遺存体の同定成果とも対比しつつ考察する。 (3)遺跡研究:これまでのフィールド調査で記録した遺構・層位の取りまとめ研究を実施する。ダルヴェルジンの地下探査結果については微地形との照合解析を進め、同遺跡に構築された囲壁の構造と機能を詳細に調べる。また、フェルガナ盆地における遺跡動態データの解析を引き続き進め、遺跡立地と地形・環境との相関関係あるいは人口流入に関するモデル化を目指すことによって、初期農耕牧畜民による調査地周辺の環境開発のプロセスを考察する。分析にあたっては数理地理モデリング解析を試験的に導入してすすめるほか、地理的連続性を考慮し隣接する中国領等の遺跡動態とも比較対照する。 (4)成果の取りまとめと公表:次年度は本研究課題の最終年次に相当するため、これまでの成果を取りまとめて出版する。出版にあたってはキルギス及びウズベキスタンでの成果を比較統合することによって、より重層的な農耕牧畜社会の成立過程に関する理解を目指す。国内外での研究集会への参加については開催状況に応じて柔軟に対応する。
|