2017 Fiscal Year Annual Research Report
「カエル糊」の適応進化の解明を目的としたフクラガエル類の自然史研究
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17H04608
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
倉林 敦 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (00327701)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澤田 均 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60158946)
熊澤 慶伯 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (60221941)
森 哲 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80271005)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 講師 (80422921)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 形質進化 / 接着物質 / フクラガエル類 / 正の淘汰 / プロテオミクス / RNA-Seq |
Outline of Annual Research Achievements |
フクラガエル属は、皮膚から分泌する「糊」によって雌雄が体を接着して交尾(正確には抱接)する、奇妙な四足動物として知られている。我々の研究グループでは、発見以来60年間謎のままであったフクラガエル糊について、その物理的特徴と、構成蛋白質、およびその候補遺伝子を明らかにしつつある。本研究では、南アフリカ共和国とタンザニア連合共和国でのフィールドワークを行い、生殖用の糊という形質の、起源・要因・過程など、適応進化の実体を生態学・系統学・分子遺伝学の側面から解明する。この研究過程で、生態学・形態学的解析、新種記載、人工繁殖研究などもあわせて実施し、未だ謎の多いフクラガエルとその近縁属の自然史について新たな知見を加えることを目的とする。 本年度は、南アフリカ東部に産するフクラガエル類の繁殖時期にあたる11~12月にかけて、同国東部地域のクワズール・ナタール州、ムプラマンガ州、リンポポ州から20地点以上について、フィールドワークを行なった。この調査の総移動距離は5000 km を超えた。 具体的な調査内容としては、フクラガエル類の分布調査、個体及び分子実験材料の採取、生息地の環境条件の記録である。また、フクラガエル種ごとに糊分泌物の接着強度測定を行なった。 本調査の過程で、未記載種3種を含む、9種のフクラガエル、およそ100個体の採取に成功した。また、各種の生息地の気象条件や土壌硬度などを記録した。さらに、フクラガエル種ごとに、糊分泌物の接着強度に違いがみられる場合があり、例えばアメフクラガエルの糊分泌物の接着強度は、20回の測定の平均で0.7 kgf/cm2であるが、ベルコサスフクラガエルではおよそ2倍の1.3 kgf/cm2であり、この違いは統計的に有意であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画上、懸念されていた、南アフリカでの野生動物採取許可を、3つの州から無事に取得することができ、本年度のフィールドワークが実現した。 また、これまでに鳴き声のみが知られていた、現地研究者も採取に成功したことのない、フクラガエル類の新種の採取に初めて成功した。 フクラガエル種間で、糊物質の接着強度に差があることを初めて実証した。この発見により、フクラガエル種間で糊タンパク質のアミノ酸配列を比較することで、実際に「接着力」という生体分子の機能の増強をもたらしたアミノ酸突然変異を特定できる可能性が高まった。さらに、その責任遺伝子の塩基配列を解析することで、該当アミノ酸置換が、正の淘汰圧を受けた進化的に有利な変異であるかを検証するための条件が整った。 以上の点より、本年度は、当初の計画以上に進展したものと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、南アフリカでの野生動物採取許可は取得することができたが、遺伝子資源の日本への輸出許可は取得できておらず、採取したサンプルは、研究代表者が員外教授をつとめている現地ノースウェスト大学に保管している。この輸出許可の取得し、日本で分子解析を推進する予定である。 また、フクラガエル類の糊の機能的、および遺伝学的な起源を明らかにするためには、フクラガエルと近縁で、同じく糊を持つフクラガエル科の別属のカエル類を収集する必要があるが、これらは主にタンザニアに分布している。タンザニアにおいても許可申請を開始し、フィールドワークを推進していく予定である。
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Research Products
(2 results)