2020 Fiscal Year Annual Research Report
「カエル糊」の適応進化の解明を目的としたフクラガエル類の自然史研究
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17H04608
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
倉林 敦 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (00327701)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊澤 慶伯 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (60221941)
森 哲 京都大学, 理学研究科, 教授 (80271005)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 准教授 (80422921)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 形質進化 / 接着物質 / フクラガエル / 南アフリカ / アミノ酸組成 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はコロナウイルス感染症により海外調査が実施できなかったため、コロナ流行の継続時に行うこととしていた、(1)フクラガエル糊粘液の化学成分の分析と、(2)2017-2019までの3年間で収集したフィールドデータについて解析を行い、さらにそれらの成果の一部について、論文執筆を開始した。 まず(1)について、水分量測定器を用いて、フクラガエル糊粘液の水分を調べたところ、その含有量はおよそ65%である。これは、日本産小型サンショウウオの糊分泌物と比較的近い値であった。また、フクラガエルの糊分泌物の主な構成物質はタンパク質であることはわかっていたが、そのアミノ酸含有量が調べられたことはない。そこで、塩酸加水分解法によりアミノ酸組成を詳細に調べたところ、グリシン(モル分率=19.4%)・グルタミン酸(11.1%)の存在比率が高かった。グリシンとグルタミン酸の構成比が高いことは、代表的な生体糊、ニカワの構成タンパク質であるゼラチンと似ている。さらに、ナマコやゴカイの仲間や、同じくカエルのカソリックガエルの糊分泌物と共通していた。特にカソリックガエルとは、グリシン・グルタミン酸以外のアミノ酸組成もよく似ていた。また、詳細な定量は行えなかったが、フェノール硫酸法により、フクラガエルの糊分泌物には糖分が含まれていることをはじめて確認した。 (2)については、フィールドデータから、フクラガエルの雌雄の糊分泌物は接着力・接着持続時間などの物理的性質が互いによく似ていることを明らかにした。フクラガエルの糊については、雌雄は異なる種類の糊をもち、両者が混ざることで強い接着力を発揮するという「エポキシ仮説」が唱えられていたが、本研究の結果は、この従来仮説を否定するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの流行が続いたため、予定していた現地調査の実施が行えなかった。特に、タンザニアについては、共同研究を予定していた現地研究者と連絡がつかない状況となり、本研究の期間でのタンザニア調査の実施は難しくなった。さらに、南アフリカのノースウェスト大学の(現地採取許可を取得してくださっている)ルイス ド プリーツ先生を介して、日本への遺伝子資源輸出許可の取得をお願いしているが、こちらもコロナの影響などから進展していないという連絡を受けており、現地で採取した遺伝子資源を用いた実験が日本で行える状況ではない。 一方で、名古屋議定書発効以前に入手したアメフクラガエル生体サンプルを用いることで、これまでに解析されていなかった糊粘液の化学的な組成(水分量・アミノ酸組成・糖分の有無)を初めて明らかにした。さらに、フィールドデータから、フクラガエルの糊分泌物は、おそらく雌雄で同じものであることを示した。ここから、雌雄が異なる種類の糊をもち、両者が混ざることで強い接着力を発揮するという従来の「エポキシ仮説」はおそらく間違っているとする結論を得た。また、この結果を含むアメフクラガエルの物理的特徴について、論文の執筆を開始した。 これらの点から総合的に判断し、本年度の研究の進捗状況は、やや遅れていると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
フクラガエルの糊の接着力は、1)体の体積(重量)に比例して強くなる、生息地の土壌の硬さに比例して強くなる、という2つの仮説があるが、我々の2019年までのデータと、ラフな解析からは、そのどちらの仮説も支持されていない。このため、系統的に派生的なグループ、または一部の単系統群で糊の接着力が高まったとする第3の仮説を立てた。これら3つの仮説について、線形化モデルなどの方法を用いて検証していく必要が生じているので、これを推進する。 上記で述べた理由から、研究期間でのタンザニア共和国での現地調査は断念する。一方で、南アフリカ共和国においては、系統的に重要だが、採取ができていない種や、サンプル数が不十分な種について追加調査を予定する。なお、上述のように、南アフリカでの野生動物採取許可は取得することができているが、遺伝子資源の日本への輸出許可は取得できておらず、採取したサンプルは、研究代表者が員外教授をつとめている現地ノースウェスト大学に保管している。引き続き輸出許可の取得を目指す。輸出許可申請がおりた場合、速やかに保存サンプルを日本に輸送する。 来年度は新型コロナウィルスの感染流行が継続してしまう可能性が高く、南アフリカの現地調査や遺伝子資源輸出許可取得の実施可能性は不明瞭である。フィールドワークが実施できない場合、これまでに蓄積した遺伝子資源によらないデータの解析を行い、論文化する。少なくとも、今年度執筆を開始したアメフクラガエル糊粘液の物理的特性についての論文は雑誌掲載する。
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Research Products
(1 results)