2019 Fiscal Year Annual Research Report
星間分子から隕石有機物へ:重水素存在度を指標とした分子進化プロセス解明
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17H04862
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大場 康弘 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00507535)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 分子進化 / 水素同位体分別 / 光化学反応 / 熱水反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年から継続して,低質量原始星IRAS16293-2422で観測されたメタノールの重水素置換体の組成を再現し,水,一酸化炭素,アンモニアとともに10ケルビンに冷却された反応基板上にそれら混合ガスを蒸着させ,真空紫外線照射実験をおこなった。紫外線照射後,室温に戻して生成物を回収し,液体クロマトグラム/超高分解能質量分析計で分析した。前年のジペプチド検出に加え,生命の遺伝物質である核酸の構成成分の一つ,核酸塩基を検出することに成功した。核酸塩基はこれまでに同様の模擬実験では検出された例がなく,地球外環境でも生成可能であることを初めて実証した。生成した核酸塩基にはそれらの重水素置換体も含まれており,光化学反応によって星間分子雲の重水素が様々な分子に継承されることが強く示唆された。本成果はNature Communications誌に掲載され,さまざまな媒体で報道されるなど,科学的のみならず一般的にも高い注目を集める成果となった。 上記実験と並行して,隕石母天体上での熱水反応によるヘキサメチレンテトラミン(HMT)の水素同位体組成変化に関する模擬実験をおこなった。170mM程度のヘキサメチレンテトラミン重水素置換体水溶液を作成し,昨年度導入したオートクレーブ型加熱装置にて様々な条件下,加熱した。水溶液のpHは7または10とし,加熱時間は最長で31日間,加熱温度は100℃から150℃の範囲で検証した。150℃で加熱すると,1日未満でHMTはすべて分解してしまった。一方120℃以下で加熱すると,HMTの一部は分解されるが,その重水素存在度が低下した。水以外に水素源が存在しないため,この現象は重水素置換HMTと水との水素交換によるものと結論される。これらの結果は仮に星間分子雲で生成したHMTが重水素に富んでいても,惑星系形成後の熱水反応によって,重水素存在度が低下することが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヘキサメチレンテトラミンの熱水反応による水素同位体交換が予想通り確認できたことに加え,混合氷の光化学反応によって,核酸塩基検出も確認されたことが非常に大きく,当該研究分野の理解の発展につながったため。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘキサメチレンテトラミン(HMT)の水素同位体交換実験を,光化学反応で生成したHMTを用いて遂行するために,反応生成物からのHMT抽出・精製法の確立を試みる。これらが成功すれば,模擬実験生成物に含まれるHMTだけでなく,炭素質隕石や小惑星・彗星リターンサンプルを対象としたHMT検出にも応用可能となるだろう。とくに今年帰還予定のはやぶさ2サンプルにも対応できるほどの精度・感度で分析可能となれば,地球外物質分析に大きな寄与をもたらすだろう。 上記分析法の確立に加え,光化学反応生成物の加熱実験による高分子状有機物(炭素質隕石に含まれる有機物の主成分)生成実験をおこなう。分析にはNMRなどの非破壊分析手法,さらに含水熱分解などの破壊分析手法も用いる。
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Research Products
(6 results)