2018 Fiscal Year Annual Research Report
核酸-タンパク質複合体形成に最適化した毒性のない核酸医薬の開発
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17H04886
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
正木 慶昭 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00578544)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 核酸医薬 / アンチセンス核酸 / DNA / RNA / 化学修飾核酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
RNaseHは、DNA/RNAヘテロ二重鎖を認識し、RNA鎖のみを選択的に切断するエンドヌクレアーゼである。この機構を用い、合成した人工DNAを投与することで、相補となるmRNAを触媒的に分解する、RNaseH依存型アンチセンス核酸が核酸医薬として応用されている。しかし、RNaseH依存型アンチセンス核酸は標的外mRNAをも切断してしまうオフターゲット効果を有しており、アンチセンス核酸の安全性向上のためには、オフターゲット効果を合理的に抑制する方法論の開発が必要不可欠である。そのような現状を踏まえ、本研究課題では標的外mRNAを切断するオフターゲット効果を、化学修飾により抑制することを目指している。この目標の達成に向け、分子動力学計算による分子設計と核酸合成、評価という最適化プロセスの確立をまず目指している。 昨年度までの研究で、RNaseH-DNA-RNA複合体の分子動力学計算、および最初の実験値を取得すべく、特徴的な構造を有する、糖部固定型核酸を19工程で合成することを達成している。本年度は、合成した分子を導入したアンチセンス核酸へ導入し、RNaseHによる切断箇所にどのような影響が出るかを評価した。その結果、予期した通り、切断位置に影響を与え、複合体形成位置を糖部修飾によりある程度制限することが可能であることを実証した。同時に、予期に反し、複合体の端の部分は構造の自由度が高く、糖部固定のみでは制限ができないことも分かった。また予備的な細胞実験において、細胞毒性が顕著に抑制可能であることも明らかにした。これらの実験値をベースに計算値へとフィードバックし、分子設計技術を改善する予定である。このように、実験値と計算値を互いにフィードバックすることで、合理的に高い安全性をもつ核酸医薬を開発していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、修飾ヌクレオチドの合成が当初計画よりも順調に達成できたため、平成31年度に評価する予定であった細胞系での評価も予備的ではあるものの平成30年度に評価を実施した。 まず、昨年度合成を達成した特徴的な糖部固定構造をもつ修飾ヌクレオチドを3種類の異なる配列をもつオリゴヌクレオチドに導入し、RNaseHによる切断位置を評価した。それぞれの切断位置は、RNaseH-DNA-RNA複合体中において修飾ヌクレオチドが異なる位置にはまり込んでいることを意味する。そのため修飾ヌクレオチドの導入前後の切断量を比較することで、修飾ヌクレオチドの相対的な効果を評価することができる。その結果、化学修飾の導入により、切断位置の変化は顕著に見られ、その効果はどの配列においても同様の傾向を示した。分子動力学計算から予測されたように、化学修飾による顕著な影響が見られた。当初の予想では、複合体中に見られる特徴的な構造と一致する部位での複合体形成が促進すると考えていたが、予期に反し、切断部位近傍の位置にはまり込むことがわかった。また、複合体形成における末端の位置においてもはまり込んでいるという結果が得られた。これらの結果を踏まえると、予期していたよりも複合体末端のゆらぎが大きく、多様な構造を許容しうる可能性が示唆された。これらの結果をフィードバックし、現在の修飾よりもかさ高い置換基にすることでどのような影響を示すかを調べる必要があると考えられる。 またコンセプトの証明に向け、合成したオリゴヌクレオチドが誘導する細胞毒性の抑制が可能かを評価した。興味深いことに、修飾ヌクレオチドの導入なしでは細胞毒性が見られた一方、導入することで毒性が顕著に抑制された。この結果をより詳細に検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では細胞系での評価は平成31年度を予定していたが、平成30年度において前倒しで研究を進めている。本年度では、前年度の結果を踏まえ、現在の修飾よりもかさ高い置換基にすることでどのような影響を示すかを調べる。そのための、新たな修飾ヌクレオチドの合成を行う予定である。今回合成するヌクレオチドのデータを合わせることで、分子動力学計算でのデータの比較においてより正確な検討が可能になる。 また現状、誘導体を合成するにも合成ルートが19工程と長いため、多様な誘導体合成の律速となってしまっている。そのような現状を変えるために、本年度は短工程合成に関わる検討も並行して行い、最終年度の研究加速のための布石を打つ予定である。特にヌクレオチドを原料として誘導する合成経路の可能性について詳細に検討を行いたいと考えている。 また予備的検討では、合成したオリゴヌクレオチドが誘導する細胞毒性の抑制が可能であることを明らかにしている。そこで、それらの系において、トランスクリプトーム解析を詳細に行い、コンセプトの証明を行う予定である。切断位置の抑制と、それに伴う表現系としての細胞毒性低減は見られているが、予期したメカニズム以外の可能性も現状は否定できない。そのため、どのような性質を持つ遺伝子群が抑制されたかを含めた詳細な解析を行う予定である。また、この観点からも、新たな修飾で同等の結果が得られるかという点も興味深い。以上述べた検討を念頭に、状況に応じて対応し、目的の達成に向け研究を推進していく。
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Research Products
(10 results)