2020 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment of "Minimum-loss" agriculture
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17H06171
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
舟川 晋也 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (20244577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢内 純太 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (00273491)
杉原 創 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30594238)
柴田 誠 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (40799607)
渡邉 哲弘 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (60456902)
真常 仁志 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (70359826)
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Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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Keywords | 環境調和型農業 / 生態系 / 伝統農耕 / 土壌微生物 / 窒素フラックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近代農業の諸問題を克服するために、「ミニマム・ロスの農業」を構築する。ミニマム・ロスとは、1)下層土からの溶存成分の流出、2)土壌表層からのガス成分としての放出、3)土壌侵食を通した土壌粒子・有機物の物理的除去、を最小にすることである。具体的には、生態学や地域研究(農耕技術論)の手法を大胆に取り込んだ上で、ミニマム・ロスの文脈で規範となり得る自然生態系、および比較的長期間にわたって持続性を担保されてきた伝統的農耕における生態学的・農耕技術的プロセスを広く探索・解明し、これらを近代農業の文脈で適用可能な技術要素として再構築した上で提示する。令和2年度における課題毎の成果は以下の通りである。 1) 生態系の資源獲得戦略から見た植物/微生物共生成立過程と窒素フラックス規定要因の解明:ベトナム、マレーシアで展開中の物質動態モニタリングについては、これまで収集した試料を用いた分析をもって成果をまとめる予定である。一方で国内においては京都市、東京都に新たに調査地を設置し、圃場実験を開始した。2)植物/微生物共生等によるエネルギー変換・生化学反応の解明:令和2年度には、これまで世界各地および日本で採取した土壌試料を素材に、基質添加に対する微生物応答に基づいて生態系における窒素制限・リン制限を検討している。3) 在来作物品種の養分要求特性の解明:タンザニア北部の伝統的バナナ栽培、日本の水稲耕作の解析をとりまとめ中である。4) 水収支等水文過程の詳細実測および在来農耕における降雨特性・土壌特性に対する適応としての異なる表土管理の評価:ベトナム中部、ラオス北部、タンザニア、カメルーンのデータを併せて解析中である。5) 在来農耕/多品種同時栽培の再評価:特にタンザニアのバナナ混植栽培について、土壌の違いに着目し、有機物施用の効果と物質動態の把握を中心とした試験結果をとりまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1についてはすでに多くの有望な結果を得ており、現在段階2のプロセス群の整理に入っている。特にオキシソルとアルティソルにおいて、異なる養分獲得戦略が微生物あるいは微生物/植物共生系によって選ばれているかもしれないという仮説に関しては、現在日本において検証のための圃場実験を開始するとともに、土壌鉱物・化学的アプローチ(アルミニウムとリン酸の反応、室内実験系における窒素動態の詳細解析など)による検証作業を行っている。 また土壌水の挙動に関する課題4においても、過去に蓄積してきたタンザニア(アルフィソル)、カメルーン(オキシソル、アルティソル)に加えて、本研究ではラオス、ベトナムのアルティソルにおいてデータを得た。これについては鉱物組成-有機物の介在-土壌構造の発達の連環から、より詳細な解析をコントロール下の条件を実施中である。 課題1の根拠説明としての課題2は、現在蓄積したデータを解析している段階である。2019年度後半より、特に異なる条件下における課題1のモデル実験を、特に窒素に関して集中的に開始した。 在来農業に関わる課題3・5については、タンザニア北部の在来のバナナ複合栽培(アンディソル)に関して、まとまった分析結果を得ている。今後、研究最終年度ではあるものの2021年度にはタンザニア北西部(アルティソル)におけるデータを補強するとともに、東南アジア、日本におけるデータを集積したい。すでに、2019年度後半より京都府において、また2020年度中葉より東京都檜原村において圃場試験を開始した。 研究調書に記した研究の概要図において、段階1のプロセス解明は研究全体の70%くらいまでを占めるが、研究4年目が終了する現段階での到達度は、以上述べたように、おおむね「当初の目標に向けて順調に研究が進展しており、予定どおりの成果が見込まれる」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1:生態系の資源獲得戦略(対窒素・リン)から見た植物/微生物共生成立過程と窒素フラックス規定要因の解明。課題1-1)で得られた窒素動態全体像の把握/環境負荷発生閾値の実測を、日本の農耕地において試みる。また現在進行中のオキシソルとアルティソルにおける物質動態の実測を継続し、特に窒素資源利用に関する統合的な結論を導きたい。 課題2:植物/微生物共生等によるエネルギー変換・生化学反応の解明。以下の観点から整理する。1) ブナ科などの外生菌根(ECM)性樹種およびスギやヒノキなどアーバスキュラー菌根(AM)性樹種と共生微生物の関係という観点から、そのエネルギー変換・生化学反応の解明を目指す。2) 異なる土壌(オキシソルとアルティソル)で成立する生態系の窒素制限・リン制限の機構解明。3) 低リン環境下における土壌微生物のリン獲得。 課題3:在来作物品種の養分要求特性の解明および課題5:在来農耕/多品種同時栽培の再評価。タンザニアのバナナ在来種栽培における資源循環図の完成を目指す。これに基づき、窒素やリン等の養分元素に関して、内部充足度あるいは外部投入への依存度、資源利用効率あるいは環境負荷率という環境農学的な評価手法をまとめる。また課題1・5と連携して、日本における圃場実験を通して、前記の評価手法の妥当性を検証する。 課題4:水収支等水文過程の詳細実測および在来農耕における降雨特性・土壌特性に対する適応としての異なる表土管理の評価。これまでのフィールド実測データをとりまとめた上で、土壌構造を中心とした、土壌の鉱物学的特性―有機金属複合体の形成―土壌構造の形成―雨水によるその破壊と土壌侵食発生という連関に対する理解を深めるための室内モデル実験を進める。
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Research Products
(28 results)