2017 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム編集を応用したFGFRシグナル制御によるヒトiPS細胞の歯胚分化誘導
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17H06530
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
堀江 尚弘 東北大学, 大学病院, 医員 (30802318)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | iPS細胞 / ゲノム編集 / FGFR / 軟骨細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ゲノム編集技術を用いてFibroblast Growth Factor受容体(FGFR)の発現を制御し,ヒトiPS細胞の歯胚への分化を誘導する技術基盤を確立することを目的としている。この目的を達成するため,ヒトiPS細胞を用いてFGFR1,2,3についてゲノム編集を施し,これらシグナル伝達の活性化がエナメル芽細胞・象牙芽細胞への分化に及ぼす影響を明らかにする。また,FGFRのゲノム編集を用いて得られたヒトiPS細胞由来歯原性細胞の三次元共培養(器官原基法)を介して歯胚への安定した分化誘導法を試みると共に,FGFRシグナルに関連した歯の発生メカニズムに関する新たな知見を探索する。 平成29年度の研究計画として以下の項目を設定した。まず,ゲノム編集を用いてFGFR1,2,3の機能亢進症を呈する病態モデルiPS細胞を作製する。次に,作製したiPS細胞を用い,FGFR1,2,3の機能亢進が歯胚上皮あるいは歯胚間葉細胞への分化に及ぼす影響を分子生物学的手法で検討する。また,これらiPS細胞を分化誘導する過程で歯の発生に関連する各種FGFを添加し,同刺激が分化に及ぼす影響を評価する。 本年度に実際に進捗できた事項としては“ゲノム編集を用いたFGFR1,2,3の機能亢進を呈するiPS細胞の作製”をおこなうため,FGFR1,2のガイドRNAを設計したと共に,代表研究者らが過去に樹立したFGFR3機能亢進iPS細胞を,代表研究者の前所属先より取り寄せた。更に各ロットの細胞を増殖させ,分化誘導実験への準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の進捗として,まずNeonトランスフェクションシステム(Invitrogen)によるヒトiPS細胞へのエレクトロポレーションについて,電圧,パルス幅,パルスの回数に関する条件検討を進めている。 次に,FGFR1,2のゲノム編集に関しては,gRNAの設計を決定した事に加えて,共導入するCas9はGeneArt Platinum Cas9 Nuclease(Invitrogen)を使用する方針とした。他にも,使用する試薬に関しては既に見通しが立っており,直ぐに実験を開始できる状況にある。またFGFR3については,代表研究者らが過去に樹立した軟骨無形成症原因変異に相当するFGFR3遺伝子のc.1138G→A(Passos-Bueno MRら,Hum Mutat. 1999)が組み込まれた,軟骨無形成症病態モデルiPS細胞(Horie Nら,Regenerative Therapy. 2016)を使用することとした。先行研究より,同細胞を軟骨細胞へと分化誘導させるとFGFR3タンパク質の発現が上昇することが確認されており,本研究における,FGFR3の機能亢進を呈するiPS細胞として用いる。これまでに,代表研究者の前所属先である東京大学口腔顎顔面外科・矯正歯科より,現所属の東北大学分子・再生歯科補綴学分野の研究室へと同細胞を輸送した。本輸送は両施設間でMTAを締結した上で行っている。更に,各ロットのFGFR3機能亢進iPS細胞をSNLフィーダー細胞上にて増殖してストックを作製し,分化誘導実験への準備を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策として,まずFGFR1,2,3の機能亢進を呈するiPS細胞を取得する事が第一優先事項であるため,未だ樹立できていないFGFR1,2のゲノム編集を進めたい。 ただ,導入する遺伝子変異の特性上,ゲノム編集によって目的とするiPS細胞の樹立が困難であった場合には,申請者らの教室で実績のある,トランスポゾンシステムを用いた遺伝子導入法で代替してFGFR1,2遺伝子制御iPS細胞株を樹立する。 また,FGFR3機能亢進iPS細胞に関しては既に手元にある状況のため,当初の計画に沿って歯胚上皮細胞(エナメル芽細胞:Arakaki Mら,J Biol Chem. 2012)/歯胚間葉細胞(象牙芽細胞:Otsu Kら,Stem Cells Dev. 2012)への分化誘導を施し,歯胚上皮特異的遺伝子(Amelogenin,Ameloblastin,Epiprofin等)あるいは歯胚間葉特異的遺伝子(Msx-1,Msx-2,Pax9,Lhx6)の発現をリアルタイムPCRにて確認する計画としている。 以上の解析を通じて,ゲノム編集で目的の変異をもつiPS細胞が得られても歯への分化誘導実験で対照群との差が著明でなかった場合には,ゲノム編集対象を,歯の発生段階に重要な役割をする他の遺伝子(SHHあるいはBMP4:Tummers Mら,J Exp Zool B Mol Dev Evol. 2009)に変更することで,従来の研究目的である“ヒトiPS細胞の歯胚分化を誘導する技術基盤の確立”を達成していく。
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