2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H07042
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
石塚 壮太郎 北九州市立大学, 法学部, 講師 (90805061)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 国家目標規定 / 憲法 / 比較憲法 / 公共の福祉 / 社会国家 / 環境保護 / 文化保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年国家は、民営化等を通じて、国家が担ってきた任務や課題の解決から撤退を始めている。これまで憲法学は「国家からの自由」を重視してきたが、それでは「国家活動の過少」を食い止めることはできない。この問題に取り組むには、国家が、憲法上どのような任務を負っていて、どのような課題に取り組むべきなのかについて、正面から捉える必要がある。つまり、憲法が、国家にどのような任務を課し、どのような課題を設定しているのかという問題である。憲法で決められている以上、国家はそこから完全に逃避することはできない。 ドイツでは、この問題は、国家目標規定の問題として論じられている。国家目標規定とは、一定の目標の追及を国家に義務づける憲法規定のことである。国家は、公共の福祉という題目の下、任意に設定された様々な目標を追求することができるが、憲法で目標が設定されている場合には、その目標の追及を義務づけられ、各国家機関(立法府・行政府・裁判所)は、それぞれの権限に基づいて、目標を実現しなければならない。ドイツでは、例えば、国内および対外的安全、社会保障や環境・動物保護が、憲法上の国家目標だと考えられている。連邦憲法裁判所によれば、文化の保護・促進も、憲法上の国家目標である。 平成29年度は、研究実施計画に則って、主に国家目標規定の総論的問題に取り組んだ。とりわけ、憲法が国家にどのような任務を課しているのかという「日本国憲法」の解釈論と、比較憲法的に見て、そもそも国家はどのような課題に取り組むべきなのかという憲法政策(憲法改正)論の区別の必要性について論じた。もっとも例外的に、解釈の範囲内で、例えば解釈選択肢の提示という形で、解釈のプロセスに比較憲法的観点が入り込む余地があることも同時に示した。これにより、総論的考察はほぼ完成した。 さらに、安全や文化、健康といった国家目標の各論的テーマとなる問題も論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の主な課題は、憲法がどのような任務を負っているかについて、従来の議論を踏まえて、どのような道筋でこれを考えるかを確かなものにすることにあった。従来の議論では、憲法解釈の視点と憲法政策の視点が混同されていることが多々見受けられた。そこで、まず両者を判然と区別したうえで、厳格な作法の下、例外的に両者の間で視線を往復させることに大いに意味があることも同時に示した。その上で、日本国憲法やドイツ基本法(および州の諸憲法)、アメリカ連邦憲法を例にして、どのような議論を展開できるかを試論した。これにより、総論的テーマの検討の大部分は果たしたといってよい。したがって、「おおむね順調に進展している」と評価することができる。 さらに、安全や文化、健康といった国家目標の各論的テーマも、それぞれドイツの事件を素材に、別々の論文で、ある程度先取り的に論じることができた。古典的な国家目標とされる安全については、その確保が、テロ対策において市民の自由と衝突する場面について論じ、各論的考察を深めることができた。文化の促進については、ヒップホップ音楽において用いられるサンプリング行為が、芸術の自由により保護されるものの、著作(隣接)権と衝突する場面で、連邦憲法裁判所が、ヒップホップ音楽の発展という文化全体の利益を持ち出して、著作隣接権に対する制約を認めた事例を紹介した。健康については、死に至る病にかかった患者の、通常の保険診療として認められない高額な保険給付請求が、憲法上、一定条件下で認められた事案を検討し、ドイツ憲法における健康利益の位置価の高さを確認した。 もっとも、総論と各論をつなぐ絵を描き切れているとは必ずしも言えないため、「当初の計画以上に進展している」とまでは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成29年度の研究実績を踏まえつつ、「国家の任務及び課題に関する憲法理論の構築」に取り組む。平成29年度は従来の議論の整理、新たな考え方・方法論の提示を行うことができ、各論的テーマにも手を付けることができた。 平成30年度は、解釈論上の国家目標規定のあり方や、それと関連する類似で既出のテーマである基本権保護義務論や、国家保障論との関連性や位置づけの違いについて整理する。取り急ぎ、国家目標規定の解釈論に関して、いまだ論文化していない箇所の執筆を行う。具体的には、国家目標規定の基本権強化機能と、国家目標規定と平等原則との結びつきについてである。 それにより、執筆すべき総論的・各論的内容が出揃うことになる。もっとも、すでに述べたように、総論と各論をつなぐ絵を描き切れているとは必ずしも言えないため、研究を進めながら、類似の議論との関係も整理し、総論と各論との間で視線を往復させることにより、全体の内容をまとめていく。具体的には、憲法が目標を設定し、それを国家に義務づけた場合に、どのような効果が生じるのか、そして権利を付与した場合とでどのような違いが生じるのかについてまとめる。仮説では、目標と設定した場合と権利を付与した場合とでは、各国家機関への拘束力に変化が生じるため、憲法による立法者への入力と裁判所への入力に差が生じ、規範の形成や保障の際の関わり方が変わってくる。この観点を軸として、検討を進めたい。
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Research Products
(7 results)