2017 Fiscal Year Annual Research Report
欧州統合下のクロアチアにおけるロマ保護政策に関する研究
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17H07249
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山川 卓 立命館大学, 情報理工学部, 授業担当講師 (10802126)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 政治学 / マイノリティ / 欧州統合 / 近代国民国家 / 「ロマ包摂の十年」 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、欧州の各国政府・国際機関によって実施されるロマ保護政策の論理および、その根底にある近代国民国家制度とロマ社会との葛藤を、クロアチアでの事例から解明するものである。 初年度は、主に欧州統合下でのロマ保護政策の論理を焦点として、(1) 欧州統合過程の「ロマ包摂の十年」への影響、(2) ロマ団体と欧州・国際レベルの政策担当機関との関係、(3) クロアチアのマイノリティ保護制度の3点を中心に研究を進めた。 (1) について、ロマ包摂の十年は当初、新規EU加盟国である中東欧諸国と加盟候補国である南東欧諸国を対象としたプロジェクトとして開始され、ロマ保護は主に旧社会主義諸国における問題として設定されていた。しかし、プロジェクトが進められる過程でEU全体でのロマ保護枠組みの策定を導くこととなり、ロマ包摂の十年後のロマ保護枠組みは、EU既加盟国と加盟候補国の区分で分断されたことが明らかになった(論文「『ロマ包摂の十年(2005-2015)』に関する一考察」)。 (2) については、「ロマ包摂の十年」がEUなどの欧州国際機関よりも、世界銀行や開かれた社会協会といった国際機関・NGOによって主導されており、「ロマ包摂の十年」に参加したロマ団体は国際運営委員会という政策方針決定の場ではプレゼンスが確保されたものの、ローカルな現場での政策策定・実施過程への参加は限定的であったことが解明された(同上論文)。 (3) に関しては、クロアチアにおけるマイノリティ保護の制度的背景として基本法の制定・改定過程を分析し、基本法が独立承認を得るために制定されたものであり、紛争の経過と諸欧州国際機関との交渉を経て、マイノリティの文化的自治ではなくクロアチアの領域的一体性を担保することを目的として制度構築されたことが明らかにされた(学会報告「クロアチアにおけるマイノリティの権利基本法の制定・改定過程」)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関連する文献の収集・分析は概ね順調に進み、2017年度中に取り組む予定であった欧州統合過程の「ロマ包摂の十年」への影響と、ロマ団体と欧州・国際レベルの政策担当機関との関係という論点は、一定程度解明し、論文として公表することができた。加えて、クロアチアのマイノリティ保護制度についての分析も進んだ。残る論点であったロマ社会におけるアクターの多様性は、1960年代以来の国際的なロマ運動の詳細を、収集した文献に基づいて分析しており、一定の整理が進んでいる。また、2017年度に実施する予定であった現地調査は日程が調整できず繰り越しとなったが、主にクロアチアでのロマ保護政策に対するロマ社会の認識を裏付けるための調査であり、次年度に実施することでカバーが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
ロマ保護政策に対するロマ社会の認識解明の足がかりとして、収集した文献に基づいて、ロマ運動の中で示されてきた非ロマ社会に対する認識と対応、あるべきロマ・イメージ形成の上での非ロマ社会の位置づけを分析していく。そして、クロアチアでのロマ社会と保護政策を歴史的に論じるために、旧ユーゴスラヴィア時代からのロマに関連する文献の分析を進めると同時に、「ロマ包摂の十年」の下で実施された政策とロマ社会の反応を公文書やロマ団体の報告書等を通じて分析する。さらに、分析を実証的に裏付けるためにクロアチアでの現地調査を行い、ロマ社会における保護政策認識を調査する。上記の分析結果を、その都度論文として公表する。また、これまでの研究代表者の研究成果とあわせて、クロアチアにおけるマイノリティ保護にかかわる書籍を2018年度中に出版するための交渉を進めている。
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