2018 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパにおける近代的書物形態の成立と発展のプロセスに関する研究
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17K00454
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
雪嶋 宏一 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00507957)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ページ付け / 16世紀印刷本 / バーゼル / ローマン体活字 / イタリック体活字 / ゴシック体活字 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、バーゼルにおいてページ付け印刷本がどのように発展したのかを知るため、VD 16(ドイツ語圏16世紀印刷本)とe-rara(スイス刊行印刷本)のデータベースを利用して1550年までの書誌データ収集を完了させて、16世紀前半にどの印刷業者がどのようにページ付けを行ったのかを統計的に把握した。そして、ページ付けを盛んに行った印刷業者フローベンやクラタンデル等、またあまり行わなかったペトリやクリオの初期のページ付け本の現物調査を8月末~9月初めにバーゼル大学図書館とチューリッヒ中央図書館で行った。 その結果、バーゼルにおけるページ付け印刷は、ページ付け本印刷を始めたヴェネツィアのアルド・マヌーツィオによるAタイプ(表面でヘッドライン右端、裏面でヘッドライン左端、2017年度の研究成果)のページ番号付けが広く採用され、ページ付け本の印刷はローマン体あるいはイタリック体の活字でほとんどが印刷され、ゴシック体活字による印刷は極めて稀であったことが判明した。 ページ付け本は人文主義者の著作とギリシア・ローマ古典が大半であった。これによってページ付けは、本の内容と活字の種類との間に密接な関連があることが明らかになった。また、フローベンやクリオは最初からページ付け技術に優れ、クラタンデルは未熟であったことも判明した。バーゼルにおけるページ付け本印刷が盛んになった理由は、人文主義書を刊行する多くの印刷業者の間でページ付け印刷技術が広まったことであった。 一方、バーゼルに地理的に近く、ページ付け本印刷の開始が同時期であったシュトラスブルクでは、バーゼルほどページ付けは発展しなかった。その原因はページ付け本を印刷する業者が限定されており、印刷業者間でその技術が広まらなかったことと、ゴシック体活字による法学書・神学書の刊行が多く、人文主義書の刊行が少なかったことであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度は当初の予定通り、ページ付け本の印刷が最も盛んになったバーゼルにおける16世紀印刷本の調査を行って、その発展の経緯と事情についてバーゼル大学図書館とチューリッヒ中央図書館で現物調査することによって具体的な知見を得た。 調査の過程でローマン体・イタリック体活字とゴシック体活字の使用によってページ付けの採用が大きく異なることを確認することができた点は、当初予想していなかった成果である。また、印刷業者が抱えていたページ番号をどのように印刷するのかという技術上の問題点を知ることができた。特に、クラタンデルの初期のページ付けはまったく不備であり、またペトリは2欄組の欄番号を印刷する途中で1欄組にしたことでおのずとページ番号になった点など、現物調査をしなければ知りえない点について明確な知見を得た。 さらに、2018年度中に当初の計画より研究が進展した点は、2019年度に予定していたリヨンとパリの印刷本に関するデータベース調査であり、今年度までに1550年までのデータ収集を完成することができた。その過程で、パリにおけるページ付けの開始が2017年度に推定した1525年ではなく、ピエール・ヴィドゥエという有力な印刷業者によって1519年にパリ最初のページ付け本が印刷されていたことが判明した。また、リヨンで1526年に最初にページ付け本を印刷したアントワーヌ・ドゥ・リュという業者は生涯にこの1点のみにページ付けを行ったことも判明した。なぜ、この1点のみなのか、どのような事情があったのかという問題点も浮上した。これらの点については2019年度の調査で明らかにすべき課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は当初の予定通りフランス16世紀印刷本の調査を行うが、調査対象の数量があまりに膨大で、しかも所蔵館がフランス以外の国にも及び、英国にも相当な数量の調査対象があることがわかっている。幸いにも本務校から2019年度に特別研究期間を与えられたため、英国とフランスに滞在して1年かけて膨大なフランス印刷本の現物調査を行うことを予定している。 4月から9月までの半年間をロンドン大学ウォーバーグ研究所(The Warburg Institute, University of London)の訪問学者として英国内に所蔵されるフランス、低地諸地方、英国の16世紀印刷本の現物調査を行い、16世紀前半から後半に至るページ付け印刷本の発展事情を調査する。 10月から2020年3月まではリヨンの国立図書館情報学高等学院(Ecole nationale superieure des sciences de l'information et des bibliotheques)の訪問学者としてフランス国内に所蔵される16世紀フランス印刷本の現物調査を行う。とりわけ16世紀に最多のページ付け本を刊行したリヨンにおけるページ付け本の印刷発展の事情を調査する。また、その間にヨーロッパ各地の図書館に赴きフランス以外の16世紀印刷本の調査を行う。 これらの成果をヨーロッパで開催される国際学会で発表し、国際的な学術雑誌に論文を投稿していく。
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