2018 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of atmospheric transport and dispersion of mass and heat in a woodland
Project/Area Number |
17K00526
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
市川 陽一 龍谷大学, 理工学部, 教授 (10371353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 英明 気象庁気象研究所, 気象予報研究部, 室長 (10354490)
辻本 浩史 京都大学, 防災研究所, 特定教授 (40747490) [Withdrawn]
井上 実 一般財団法人日本気象協会, 担当部長 (60578954)
佐々木 寛介 京都大学, 防災研究所, 特定准教授 (10578967)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 大気環境 / 熱環境 / 里山 / 森 / 樹木 / 大気浄化 / 風洞実験 / ドローン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)大気汚染物質と温熱環境の立体的な実態把握:滋賀県瀬田丘陵の龍谷大学に隣接する里山「龍谷の森」において、パッシブサンプラーにより二酸化窒素NO2濃度の観測を継続した。サンプラーは森の林縁~中央~林縁に配置した。森の中央部でNO2濃度が減少し、両林縁にかけて濃度が上昇した。森内の観測タワーにおいてNO2の鉛直濃度分布を観測したところ、樹冠の上空に比べて地上では50%弱の濃度減少が見られた。この減少割合は森中央部の濃度減少割合とほぼ同じであった。トレーサガスとしてパーフルオロカーボン(PFT)を用いた実験では、林縁のキャノピー層から放出したPFTは風下出口の地表付近に到達していた。 森内外の温熱環境と身体影響の観測を行った。温熱環境については、龍谷の森内外で1日を通じた経時変化を計測した。夏季の13時に暑さ指数WBGTの森内外の差が最も大きく、森内で2.5℃低かった。身体影響については、スマートセンシングウェア(東洋紡製)を着用して運動中の心拍数などを計測した。WBGTが低い森内では心拍周期の標準偏差が小さいなど、運動の身体への影響が緩和された。また、ドローンによる気温の観測では、森外で地表面加熱の影響が高さ50mまでおよんでいた。樹冠の上空の気温は森内とほぼ同じかやや低かった。 (2)風洞実験による輸送・拡散過程の解明:気象庁気象研究所の大型風洞を用いて気流とトレーサガス拡散の実験を継続した。ネットやジオラマ樹木模型の幅、高さ、密度を変化させて求めた速度欠損などから実現象との相似性を検討した。その結果、本研究で使用しているジオラマ樹木模型の空隙率は約30%という結果を得た。また、龍谷の森の樹木密度に合わせたジオラマ模型群を対象にした実験から、トレーサガスが森の背後の逆流により森の下流端から森内へ流入することに加えて、森風下側面から流入することも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度計画では、(1)大気汚染物質と温熱環境の立体的な実態把握として、龍谷大学隣接の里山「龍谷の森」において、パッシブサンプラーによる二酸化窒素NO2濃度の観測、野外トレーサガス実験、鉄塔とドローンによる気象観測、暑さ指数WBGTの観測、熱環境がおよぼす身体影響を検討するための心拍周期などバイタルサインデータの取得、(2)風洞実験による輸送・拡散過程の解明として、気象庁気象研究所の大型風洞装置を用いて、ネットやジオラマ樹木模型、龍谷の森の樹木密度に合わせたジオラマ模型群を対象に気流とトレーサガス拡散の実験を実施するとしていた。 (1)の実態把握については、ほぼ全ての内容を実施し、森の中央部における大気汚染物質濃度の減少割合を定量的に評価した。温熱環境については昨年度の暑さ指数WBGTの空間分布に続き、今年度は時間変動を測定できた。これらにより龍谷の森における森内外のWBGTの差が定量的に把握できた。ドローンによる観測からは地面や樹冠上空の境界層の範囲が計測できた。また、当初計画になく研究の過程で追加したバイタルサインデータの取得により森の熱環境緩和効果が確認できた。 (2)の風洞実験についても、ほぼ全ての内容を実施し、実験に用いているジオラマ樹木模型の速度欠損、濃度欠損、空隙率など基本的な流体力学特性が把握でき、実樹木との相似性が検討できた。また、龍谷の森と樹木密度を合わせたジオラマ模型群の風洞実験では、昨年度の鉛直断面の測定データに今年度の水平断面の測定データを合わせて流れ場や濃度の空間構造を把握した。これらから、龍谷の森で観測された森中央部の大気汚染物質の濃度減少のメカニズムが明らかになった。なお、当初予定していた粒子画像風速測定装置による測定はレーザドップラー流速計による測定に代替した。 以上から研究はおおむね計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
おおむね当初の計画通り、以下のように研究を進める。 (1)大気汚染物質と温熱環境の立体的な実態把握:龍谷大学隣接の里山「龍谷の森」において、大気汚染物質と気象の立体的な観測と解析を継続する。大気汚染物質が林縁から森の中に輸送・拡散される実態を風向や吹送距離別に解析し、樹木による汚染物質の流体力学的な遮蔽効果を明らかにする。また、風洞実験でシミュレーションする際の比較対照データとして整備する。気象について、25m高鉄塔とドローンによる観測を継続する。ドローンによる観測では安全上許す限り樹冠付近の境界層を対象により密な間隔での測定を実施する。これにより樹冠を介した物質や熱の交換に寄与する乱流特性を明らかにする。また、里山内の温熱環境の空間分布の把握を継続し、バイタルサインなど身体影響の結果と合わせて、里山や樹木の温熱環境改善効果を明らかにする。 (2)風洞実験による輸送・拡散過程の解明:気象庁気象研究所の大型風洞を用いて気流とトレーサガス拡散の実験を継続する。昨年度までと樹木の通気性、枝葉の剪定条件などを変化させたジオラマ樹木模型を対象に、模型単列および龍谷の森と樹木密度を合わせた模型群について実験を行う。また、代表的な森の実験ケースについては、温度成層条件下で気流、温度、トレーサガスの濃度分布を測定する。得られたデータを解析して、森が存在するときの大気汚染物質と熱の輸送現象や、森上空とキャノピー層の大気汚染物質や熱の交換に係るメカニズムを明らかにする。 (1)、(2)の成果をもとに、里山の管理や植林による都市大気汚染、温熱環境の緩和計画を提言する。また、里山における大気汚染と熱の実態把握、風洞実験で得られた輸送・拡散過程の3カ年の成果をまとめ、大気環境、気象、流体物理に関する学会で発表する。
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Causes of Carryover |
学会開催場所が近隣地で旅費の使用が予定より少なかった。ドローンのバッテリーの消耗が少なく、交換の必要がなかった。風洞実験や学会参加の旅費、風洞実験、ドローンの消耗品に充てる。
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