2017 Fiscal Year Research-status Report
野菜の呈味成分・テクスチャーが偏食に及ぼす影響と思考型調理プログラムの開発
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17K00817
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
井奥 加奈 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (40243282)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 野菜 / 調理方法 / 遊離アミノ酸 / キャベツ |
Outline of Annual Research Achievements |
関西在住の消費者を対象として、調理経験の違いが野菜の消費意識や調理方法のイメージに及ぼす影響について質問紙調査により検討した。調査に用いた野菜は生産量の多いと思われる24種類の野菜である。回答者のうち、調理頻度の高い子育て世代177名と調理頻度の低い大学生241名の回答を比較検討した結果、野菜の消費意識は調理頻度に影響を受けることが多く、調理頻度が高いと野菜を加熱するかどうかの判断が容易になる可能性が考えられた。近年カット野菜で流通しているキャベツは、調理経験がなければ生食をメインとするが、調理経験によって多様な調理が可能な野菜であり、食育教材として有用な野菜であると考えられた。さらに、この調査から、加熱野菜に対する加熱の理由やカット野菜の有用性など、家庭科や食育で新たに説明すべき内容があることが示唆された。1997年にも同様の野菜に関する調理の調査を実施したが、その調査結果と比較すると、1997年では「揚げる」「漬ける」調理が家庭で日常的に行われ、母親世代と女子大学生の調理方法イメージはほぼ同じであった。一方、2016年時には大学生において「炒める」「焼く」の区別がつきにくくなっていることが分かった。調理頻度は1997年も55.6%の大学生が日常調理をしないと回答したが、中食・外食の普及など食生活環境の変化が大きく影響している可能性もある。今後、調理レシピを正確に把握できるようにする調理教育のプログラム開発や調理経験の蓄積方法の重要性が示唆された。調理教材として有用であることが確認されたキャベツを用いて、2017年度にHPLCを用いて研究室にて遊離アミノ酸を分析するシステムを構築した。遊離アミノ酸のうち、加熱することで甘味性アミノ酸のアラニンが増加したことから、野菜の加熱による甘味の増加には糖の増加の場合とアラニンの増加の場合があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)野菜の消費に関する調査については、調理経験の異なる集団の協力を得て野菜の消費意識と調理方法イメージについて質問紙調査を実施した。加熱野菜における加熱の重要性に対する認識や生野菜の食感など、野菜の衛生的な理解も調理経験によって理解できることが分かった。本調査においては、24種類の野菜に対して同じ質問文を設定したため、野菜によっては分かりにくい質問項目になったことが研究の限界として挙げられる。1997年に実施した野菜の調査を再解析することで食生活環境の異なる時期と現代との比較研究をすることができたので、調理経験だけが野菜の調理方法に影響するわけではないことが示された。調査結果から調理実習前における調理教育の重要性を考察できたことから、調査の成果は大きいと考える。 (2)前年度の予備実験成果としてキャベツを70℃で蒸すと圧縮(モデル咀嚼)した際に放出される糖量(リリース糖量)が増加することを確認していた。キャベツを試料とすることは(1)の調査とうまくリンクできたが、リリース糖量を測定する際に、ブランク(非圧縮試験)が必要であることがわかり、リリース糖量の測定プロトコル構築に時間を割くことになった。さらに、2017年度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による遊離アミノ酸の分析システムを構築するのが課題であった。蛍光検出器つきHPLCシステムを所持していないため、ダブシル化試薬を用いて前処理し、UV検出する方法を採用した。こちらも分析するのに多少時間を要したが、70℃蒸しを含めてキャベツの蒸し調理における甘味性遊離アミノ酸の増加は確認することができた。しかしながら、2017年度はキャベツに含まれる糖におけるリリース糖量の割合、遊離アミノ酸のリリース量など基礎実験までできなかった。今後、実験の効率化とプロトコルの確立を目指して実験を重ねる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は、調理実習前教育のプログラム作りに関する研究と、野菜の甘味発現に関する研究に分けて行う。野菜の甘味発現は、消費者パネルを対象とする官能評価も行う予定であるが、官能評価を介して調理実習前教育のプログラムにリンクできるように取り計らう。 (1)調理レシピを理解しやすくするための調理教育プログラムの開発のための基礎研究:家庭における調理の目的は健康・栄養バランスと食文化の維持継承にある。しかしながら、調理経験がほとんどない場合、1-2回の実習で体験的に手作りの食事の重要性などを理解することは困難ではないかと考えられる。そこで、野菜の衛生教育(生では食べられない野菜、有毒植物など)や野菜の甘味に関する味覚教育、テクスチャー用語や調理用語の紹介など、調理実習を家庭科などで行う際の導入教育になるような調理プログラムに適切なコンテンツとその効果に関する基礎研究を質問紙調査もしくは介入研究で行う。調査対象者は教員免許取得希望学生とし、Moodleをはじめとするe-ラーニングツールも活用する。 (2)調理過程における野菜の甘味とおいしさに関する研究:キャベツは加熱しても糖の含有量が変わらず、遊離アミノ酸のうち、甘味の強いアラニンなどが増加したが、キャベツは口腔内で咀嚼して嚥下するので、キャベツを磨砕して得られる抽出液におけるアラニンなどの増加ではなく、圧縮して放出される物質量(リリース量)の増加を検討すべきである。今年度は、キャベツを用いて甘味を呈する遊離アミノ酸の定量分析を行い、昨年度のデータの再現性について検討する。また、他にも加熱することによって甘味が増加する野菜を検索し、加熱することによって甘味が増加する野菜のうち、甘味を呈する遊離アミノ酸が増加する野菜と糖が増加する野菜を提供することにより野菜のおいしさに及ぼす甘味の影響を官能評価により明らかにする。
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Causes of Carryover |
1年目に遊離アミノ酸分析用HPLCを導入し、分析ができるように整備しながら、プロトコルを構築した。2年目以降では、実際に野菜を調理しながら遊離アミノ酸を定量分析するため、実験用の試薬・消耗品など購入費と謝金、学会発表のための交通費に翌年度分の助成金を使用する計画である。
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Research Products
(2 results)