2019 Fiscal Year Research-status Report
沖積平野・海岸平野における微地形分類と自然災害との関係に関する再検討
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17K01238
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
海津 正倫 奈良大学, その他部局等, 特別研究員 (50127883)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 沖積低地 / 微地形 / 土地条件 / 水害 / 地形分類図 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年の西日本豪雨災害に引き続いて,2019年には,東日本各地で甚大な水害が発生した.東京都と神奈川県の県境を流れる多摩川でも川崎市溝の口では多摩川と平瀬川との合流点付近においてマンションの1階部分が水没して犠牲者を出すに至った.この地点については水位上昇した多摩川から平瀬川へのバックウォーターの問題が指摘されたが,同時に被災したマンションの立地場所が地形的には旧河道にあたっており,溢れた水が集まりやすく浸水深が深くなる場所であることを指摘した(久保・海津, 2019).下流側の武蔵小杉付近でもタワーマンション群の水害が注目されたが,この武蔵小杉一帯では現在の土地利用からは地形の違いを読み取ることが困難である.今回注目されたタワーマンションが立地している場所は,地形的には後背湿地(氾濫原低地)にあたっており,本来的には水はけが相対的に悪く,内水氾濫しやすい場所にあたっている.都市においては下水道などの整備が進んでそのような問題が解消されつつある所が多いが,ひとたび想定を超えるような豪雨が発生した場合には本来の自然の特性が現れることを指摘した.また,横須賀線の武蔵小杉駅一帯も浸水被害が著しかったが,この部分は旧河道の場所であり,特に浸水・湛水しやすい場所であるということが地形分類図から把握できることを指摘し,地形分類図の有効性について「防災推進国民大会2019」のセッションとして開催された日本学術会議公開シンポジウムおよび早稲田大学における日本地理学会台風19号緊急報告会において報告した. 一方,途上国の例として,タイ国中部の海岸平野における微地形と土地利用変化を衛星画像やDEMデータなどによって把握・検討した(齋藤・海津, 2020). さらに,これまでの研究成果をふまえて,古今書院より『沖積低地―土地条件と自然災害リスク』を刊行した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沖積平野・海岸平野における微地形分類と自然災害との関係に関する再検討を進める上で大きく次のような問題がある.一つはさまざまな自然災害と微地形との関係を整理することであり,さらなる一つは微地形分類やそれを示す地形分類図の問題である.前者については,これまで報告されたさまざまな論文にもとづいて整理・検討することが必要である.一方で,そのような観点からは学会誌の論文ではさまざまな制限があり限界があるために,単著を執筆することとし,古今書院より『沖積低地―土地条件と自然災害リスク』を刊行し,第3章,第4章において詳しい記述・検討をした.また,後者に関しては地形分類図の成立過程も含めて検討することが必要であるため,同書の第5章において各種の地形分類図が公刊されてきたことを示し,用語の不統一があることなどの問題点も述べた.さらに,よりわかりやすいハザードマップについての提案も行った.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成する上で大きな目標であった書籍による検討・取りまとめを,『沖積低地―土地条件と自然災害リスク』として古今書院より刊行し,ある程度の成果をあげることができたと考える.今後はわが国で得た知見の途上国への適用ということを意識し,事例地域について微地形と自然災害との関係をより具体的に検討したいと考えている.また,一昨年,昨年に続いて今年度も顕著な水害が発生する可能性があるかもしれないので,実際に災害が発生した場合には更なる検証を行いたいと考えている.
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Causes of Carryover |
7月10日に母が逝去したのち,8月19日に義理の父が逝去し,亡くなる前の病院等に対する対応や,双方の葬儀関係,さらに役所等への事務手続き,相続に関するさまざまな手続きに追われ,調査・研究を進めようと思っていた夏休み期間が忙殺され,研究を遂行することができなかった.さらに,一段落した9月には内臓に関する手術のための検査と入院,10月に手術がおこなわれ,術後も11月下旬まで手術の縫い目が癒着しないなどのため動きがとれない状況が続いた.(その間,奈良大学の授業は休講.)12月に入りようやく動きがとれる様になったが,多くの補講などのために落ち着いて研究を遂行できない状態が続き,現在に至ってしまった. その間,本研究の目的を達成する上で大きな目標であった書籍による検討・取りまとめを,『沖積低地―土地条件と自然災害リスク』を執筆し,古今書院より刊行する事ができた.今後はわが国で得た知見の途上国への適用ということを意識し,事例地域について微地形と自然災害との関係をより具体的に検討したいと考えている.また,一昨年,昨年に続いて今年度も顕著な水害が発生する可能性があるかもしれないので,実際に災害が発生した場合には更なる検証を行いたいと考えている.
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Research Products
(6 results)