2018 Fiscal Year Research-status Report
オリンピックの臨床哲学:人間学的価値からの持続可能なオリンピックに向けて
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17K01692
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
関根 正美 日本体育大学, 体育学部, 教授 (50294393)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 哲学的人間学 / ドーピング / 商業主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度の実施計画は過去のオリンピックの事例に照らし合わせて、「より人間的に」の観点から現代オリンピックの病理である「ドーピング」ならびに「商業主義」につて考察を行うことであった。昨年度までの研究成果として「より人間的に」は人間の達成行為を抑制するものではなく、生物学的に限界づけられている人間がその状況の中で成し遂げることを意味する。「ドーピング」に関しては特にレンクによる2010年の文献における「オリンピックの人間化」の分析から、生命の危機を抑えることの中にトップレベルスポーツにおける人間化の意味がある。ここから導かれる「より人間的」なオリンピックは、競技者の健康や生命を脅かさないスポーツの祭典を意味している。ドーピングの禁止理由はいくつか挙げられるが、アンチドーピングをIOCに意識させたのはドーピングによる選手の死という出来事であった。ドーピングの非人間性は死に至る可能性にある。アンチドーピングをIOCに意識させた歴史的として、1960年ローマ大会での選手の死亡事件がある。自転車競技でデンマークのイエンセンが競技中に死亡し、後にアンフェタミンの大量摂取によるものと判明した。ドーピングによる初めての死亡事故をきっかけに、IOCはドーピング禁止を明確にするようになる。ここから導かれる「より人間的」なオリンピックは、競技者の健康や生命を脅かさないスポーツの祭典を意味している(研究発表の内の「雑誌論文として記載」)。次に、「より人間的に」にはもう一つの意味がある。それは、かっての社会批判者による「便利な愚者」として生きることとも異なるし、近年のテレビと大衆が競技者に求める「親しみやすさ」とも異なる。その原理が「第二の自然としての達成行為」である。商業主義がオリンピックのモットーと結びつく時の処方箋として、「第二の自然としての達成行為」という概念を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドーピングに関しては、1960年のローマオリンピックのドーピングによって自転車競技者が死に至った過去の事例などを検証しつつ研究を進めることができた一方で、商業主義については過去の事例による裏付けがほとんど取れなかった。この点が当初の実施計画よりもやや遅れているといえる。しかしながら、原理論のレベルで「より人間的に」の概念を明らかにすることができている点と、学会で発表し論文として公表できた点を評価して(2)の進捗状況評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年が研究期間の最終年になる。本研究はオリンピックの哲学的原理を確保することでオリンピックが抱える病理に対して、オリンピックが人類の知的遺産として生き続けるための現状改善への道をハンス・レンクの「より人間的に」という思想から紡ぎ出すことを目的に開始された。 4月~8月 オリンピックの病理の一つであるドーピングに関しては、競技者の個人道徳責任にとどまることなく制度や組織の責任も視野に入れてより人間的なオリンピックの観点から、オリンピック改革という処方箋について考察する。商業主義という病理に関しては、スポンサーおよびメディアの過剰な関与に対する処方箋を「より人間的な」観点から提示する。具体的には「より人間的」をめぐって前年度までの成果で人間の達成行為を保証するという意味内容を受けて、それを阻害するスポンサーおよびメディアのあり方を問題にすることになる。 9月 これまでの成果を京都にて開催予定の国際スポーツ哲学会で発表する。 10月~1月 これまで考察したオリンピックの病理ならびに処方箋をもとにオリンピックの理念を構想する。具体的には、「より速く」、「より高く」、「より強く」、「より人間的に」という独自の達成をなす競技者の姿、オリピック大会のあり方について検討する。 2月~3月 これまでの研究を総括し、論文として投稿することで研究を完了する。
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Causes of Carryover |
理由としては、当初計画していた文献の収集および整理のための人件費・謝金を計上していたものの、それらを研究代表者が直接行ったため人件費・謝金の使用を行わなかったためである。 次年度の計画については人件費・謝金を使用することで、より効果的・計画的な研究遂行を行う予定である。
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Research Products
(3 results)