2017 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of motor learning strategy via two types of the cerebellar synaptic plasticity
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17K01982
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山口 和彦 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (00191221)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 運動学習 / 小脳 / シナプス可塑性 / 反動性増強 / 長期抑圧 / グルタミン酸受容体 / 樹状突起スパイン / 最初期遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
複雑で精妙な運動の学習には適切な習得プログラムと繰り返しの練習が必要である。特に難易度の高い運動では、初めから高レベルの練習をしても学習できない。難易度の低いものからスタートする必要がある。しかし、この経験則の神経生物学的な基盤は全く不明であった。そこで私は小脳の神経細胞レベルでの学習において、2種類のシナプス可塑性に注目し、一方がより容易な学習に用いられ、他方がその後の精緻で高度な運動学習に用いられるとの仮説を立て、これを検証する。第1のシナプス可塑性は小脳皮質プルキンエ細胞への抑制性シナプスにおける反動性増強であり、第2のシナプス可塑性はプルキンエ細胞への興奮性シナプスの長期抑圧である。両者とも誤差信号を担うと考えらる登上線維の繰り返し発火後、結果としてプルキンエ細胞の出力が低下するという結果をきたすが、反動性増強は同じ登上線維の複数の分枝に支配される複数のプルルキンエ細胞で同時に生じる一方、長期抑圧は登上線維と時間的に接近した発火した興奮性シナプスのみに生じる。これらの変化を構造的にとらえることが出来れば、運動学習初期、あるいは容易な運動の学習では広範囲に反動性増強が生じ、一方、難しい運動学習の習熟期ではさらに限られたシナプスで長期抑圧が生じているはずである。本年度は画像解析によってそれぞれのシナプス可塑性に伴う構造変化を確実に捉える方法の開発に努めた。マウス小脳のスライス標本を用いて、細胞内Caイオン濃度を上昇させる高Kイオン液で反動性増強の条件を模倣し、またこれとグルタミン酸刺激を組み合わせることで長期増強の条件を模倣した。後者では最初期遺伝子cFosを発現するプルキンエ細胞が多数見られたが、前者では少なかった。樹状突起スパインの形状は今回の条件では両者ともスパインがやや膨れる傾向がみられた。細胞内グルタミン酸受容体の分布につては今のところ差はみられていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小脳プルキンエ細胞においては、海馬神経細胞等にみられるシナプス可塑性に伴うスパインの形状変化は見られないことが報告されている。しかし分子レベルでの反動性増強や、長期抑圧のメカニズム研究の結果、反動性増強においてはGABAA受容体と足場蛋白質GABARAPとの結合が増強されること、長期増強においてはAMPA型グルタミン酸受容体の細胞内プールが初期エンドソームから後期エンドソームに移行すること、が報告されている。また、培養プルキンエ細胞を用いた我々の研究から、長期抑圧誘導刺激により、スパイン内のAMPA型グルタミン酸受容体プールが減少することが分かっている。これらの変化をサブミクロンの解像度で明らかにすることを初年度の目標とした。特にこれらの構造的変化を観察するためにはSTED顕微鏡を用い、高解像度でスパイン内の分子の分布を観察する必要がある。当初、電気生理学的にシナプス可塑性を生じさせ、スライス標本を固定後、薄い凍結切片を作成してスパインをSTED顕微鏡で観察することを試みたが、クライオスタットにより作製した凍結切片の中に蛍光色素で標識された記録細胞を見出すのが大変難しかった。途中から、電気刺激、記録の代わりに、高K溶液、あるいは高K+グルタミン酸溶液による代替刺激に変更したこと、凍結切片を作製することをやめて厚い(300ミクロメーター)スライスのまま固定、蛍光抗体法を用いたこと、共通施設のSTED顕微鏡の使用をやめ、通常の共焦点顕微鏡で観察することにしたこと、により作業能率は向上した。しかしながら、細胞内への抗体の浸透にまだむらがあり、条件を改善中で、予定に遅れが生じている。今後、特に細胞内における受容体プールや足場蛋白質の検出精度を上げるように努力する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
小脳プルキンエ細胞において、反動性増強、長期抑圧に対応する構造的変化、すなわち記憶痕跡(エングラム)を確実に捉えることが最も重要である。このために、まず小脳スライス標本を用い、生理実験条件、固定、抗体反応条件を最適化し、細胞内のグルタミン酸受容体プールの分布、初期、あるいは後期エンドソームと細胞内グルタミン酸受容体プールの関係、GABA受容体と足場蛋白質GABARAPの共存関係等を検討し、確実な条件を見出す。 記憶痕跡エングラムを確実に検出できたならば、マウス個体をもちいて、難易度に差のある運動学習を行わせ、それぞれ学習における小脳内エングラムの特徴を解析する。現在作製中の装置では、上肢でレバーを引くと口の前のチューブから水滴が供給され、マウスは舌でなめることができる、というものであるが、難易度を上げるために、途中でレバーを引く力を変えないと水が出ないようにしたり、あるいは動かす範囲を制限し、越えて動かすと水がもらえない、といった改良を装置に加える。 記憶痕跡エングラムが運動学習と因果関係にあるかを検討する。小脳スライスを用いた予備実験では反動性増強ではなく、長期抑圧においてのみ最初期遺伝子の発現増加がみられたが、さらに詳しく関係を定量的に検討する。最初期遺伝子の発現がシナプス可塑性に及ぼす因果関係は現在不明だが、シナプス可塑性発現と最初期遺伝子発現の間に、十分な並行関係が認められれば、この最初期遺伝子のプロモーターでチャネルロドプシン等を可塑性依存性に発現させて光遺伝学的に、あるいはDREADDを発現させ薬理遺伝学的に、運動学習行動を操作することで、記憶痕跡を発現している可塑性発現細胞と運動学習の因果関係を証明する。
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Causes of Carryover |
研究の実施計画において、小脳スライスを用いたシナプス可塑性の分子―構造的変化の解析が技術的理由、すなわち凍結切片内でマークした神経細胞を見つけることが困難であったり、厚いスライスでは細胞内への浸透にムラが生じ、信頼できる定量解析レベルに達していない等の問題により遅れが生じた。当初はGABAA受容体、グルタミン酸受容体の細胞内分布を確定的に解析したのち、足場蛋白質などの抗体を購入し、共存状態などを高解像度共焦点顕微鏡を用いて解析する予定であったが、これらの技術的遅れのため、使用予定の抗体2-3種類をまだ購入していないため、次年度使用額が生じた。次年度、すぐに購入予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Autism-like behaviours and enhanced memory formation and synaptic plasticity in Lrfn2/SALM1-deficient mice.2017
Author(s)
Morimura N, Yasuda H, Yamaguchi K, Katayama K, HatayamaM, Tomioka N, Odagawa M, Kamiya A, Iwayama Y, Maekawa M, Nakamura K, Matsuzaki H, Tsujii M, Yamada K, Yoshikawa T, Aruga J.
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 8
Pages: 1-17
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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