2018 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of motor learning strategy via two types of the cerebellar synaptic plasticity
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17K01982
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山口 和彦 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (00191221)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 小脳 / 長期抑圧 / 反動性増強 / プルキンエ細胞 / シナプス可塑性 / グルタミン酸受容体 / 抑制性介在ニューロン / 受容体トラフィッキング |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳の運動学習に関与すると思われるシナプス可塑性の内、特に平行線維―プルキンエ細胞間シナプスにおけるシナプス伝達長期抑圧(LTD)と抑制性介在ニューロン―プルキンエ細胞間の抑制性シナプスにおける反動性増強(RP)のそれぞれの運動獲得ストラテジーにおける役割を見出すことを目的として、それぞれの可塑性を可視化し、運動獲得のどの段階でそれぞれが寄与するか、を解析することを平成30年度当初は目指した。可視化の方法としてまず予備的に組織学的に解析することを行った。遺伝子操作の利便性を考え、マウス小脳を用いた。まずLTDの可視化として、小脳スライス標本(厚さ300microm)を作製し、26℃で1時間以上回復させたのち、30mM KCl、30 microM グルタミン酸を含む人工脳脊髄液ACSFで15分間、灌流後、15分間ACSFでリンスした。実験チェンバー内のACSFは30℃に保た。リンス後、固定しGluA2 N末を認識する抗体で表面に発現している受容体を染めることを試みたが、培養細胞では大変上手くいったこの方法だが、スライス標本では染まりが悪るかった。薄いクライオ切片では表面のみを染めることは不可能であった。第2の方法として、スパイン内のGluA2の分布を調べることを試みた。ラットではLTDに伴い、GluA2のスパイン内プールがシャフトに縮退することが観察されているからである。抗GluA2/3 C末抗体を用いて蛍光交代法を適用したところ、スパイン内からのGluA2の縮退はみられなかった。改めて電気生理学的にテタヌストキシン、ダイナミン阻害剤などを投与したところ、ラットとは大きく異なり、AMPA受容体の構成性トラフィッキングがほとんど見られなかった。これは全くの予想外の結果で、マウスとラットでグルタミン酸受容体調節機構が大きく異なっていることが見いだされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
小脳平行線維―プルキンエ細胞間シナプスのLTDはGluA2の表面発現が30%低下する他、リサイクルプールが40%減少することをラット小脳スライスの研究から見出していた。またラット培養プルキンエ細胞で化学的LTDを生じさせた場合は、スパイン内からシャフトにGluA2細胞内プールが移動することが観察できていたので、マウス小脳スライスでも同様の現象が生じていると予想していた。しかし現実にはラットとマウスで構成性トラフィッキングからして、AMPA受容体の表面発現メカニズムが全く違うことを予想していなかった。測定温度なども35℃まで上昇させてテタヌストキシン、ダイナミン阻害剤の効果を見たが、ほとんど作用が見られず、AMPA受容体の構成性トラフィッキングはマウスでは大変遅いか、ほとんどないと結論付けられた。 抗体を用いた組織化学的方法でGluA2の表面発現の減少を測定することの困難さは予想していた。しかしラット小脳におけるスパイン内GluA2プールの減少は我々の発見であり、これに関してはスライス標本における組織化学的方法でも十分測定できると予測していたが、観察できなかった。 また、pHluorin結合型GluA2をウイルスを用いてプルキンエ細胞に発現させる計画も当初持っていたが、所属チームの閉鎖が実質的に1年前倒しになってしまい、協力研究者等との共同実験が全くできなくなり、その上、実験装置の解体なども早められ、後半は全く実験ができない状態であり、計画が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
この20年、多くの脳神経科学の研究は遺伝子操作に関する容易さなどから、マウスを用いて行われてきた。しかし、記憶学習、疾患モデルなど、マウスだけに依存するのは問題があることを気づかされた。現在、国立精神神経センターに移り、霊長類(マーモセット)での実験も可能な環境である。マーモセットでは保育放棄された新生児を用いて生理実験を行うことも可能であり、まず化学的LTDにおいて、プルキンエ細胞スパイン内のGluA2プールが変動するか、組織化学的に調べる。それほどの個体数は必要ない。 また、小脳スライスの電気生理学的実験において、平行線維と登上線維の同時刺激、あるいは平行線維刺激と細胞体脱分極の組み合わせ刺激により、LTDが生じる条件を探る。LTD誘導後のGluA2トラフィッキングの測定から、リサイクリングプールの増減を検討する。RPについても電気生理学的に作成し、GABARAPの集積に注目し組織学的検索を行う。またアダルトで運動学習実験の途中、あるいは完了した動物をもらい受け、スパイン内のGluA2分布について、組織化学的に検討する。
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Causes of Carryover |
平成30年度の実験計画は(1)ラット小脳スライス実験及び培養細胞実験から予測した結果を用いてマウスで実験を行ったところ、予想外にシナプスにおける受容体発現の仕組みが大きく異なり、当初計画での可視化が困難になったこと。 (2)所属していた研究チームの閉鎖が実質的に1年早まり、分子生物学担当の研究協力者が研究を離れ別の職に移ったことで協力を得られなくなったこと、、および実験装置の解体、譲渡により予定の実験の実施が難しくなったことで、実験計画が遅れ次年度使用額が生じた。 次年度は英文校正、投稿費用がかなり掛かるのでこれに使用する。
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Research Products
(3 results)