2018 Fiscal Year Research-status Report
20世紀哲学における〈欲望〉概念の解明とその実践的意義についての考察
Project/Area Number |
17K02179
|
Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
越門 勝彦 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (80565391)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 聖一 立正大学, 文学部, 准教授 (00503864)
朝倉 友海 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (30572226)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 欲望 / 価値論 / 意味論 / 動機づけ / 道徳的価値 / 道徳心理学 / ドゥルーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
3月21日に研究会を開催し、本研究課題に関わる各自の研究成果を報告した。 代表者の越門は、アンスコム、Ph.フット、ネーゲル、マクダウェルが、行為の動機づけ要因としての欲望(欲求)をどのように説明してきたかを分析した。アンスコムとフットが、外在主義の立場から、人を行為へと動機づけるには欲求と信念の二要因が不可欠と考えるのに対し、ネーゲルとマクダウェルは、欲求を動機づけ要因から排除する。つまり、彼らは、行為の説明ならびにその妥当性の評価に際して、行為者に帰属させられるべきは、状況認知の要因のみ、つまり信念のみだと主張する。これが報告の要点であった。 分担研究者の竹内はマーク・プラッツの『道徳的実在』の第一章、第二章を精読し、プラッツによる欲望(欲求)理解の独自性を明らかにした。同書でプラッツは、ラッセルに始まりアンスコム、ネーゲル、マクダウェルらの欲望概念を批判的に検討した上で、道徳判断と道徳的行為における欲望の働きと役割を見定めようとしており、本研究課題では同書を特に重要な文献と位置づけている。竹内の報告によれば、プラッツは、欲望についての従来の見方への代案として、「望ましさの特徴づけの源泉としての欲望(欲求)」という新たな見方を提示している。これは、欲望(欲求)は信念と「世界との一致の向き」が逆である(だから両者は相補的である)という通念に反する独自の見解であり、入念な検討に値するものである。 分担研究者の朝倉は、ドゥルーズの『意味の論理学』の背景には分析哲学の問題系に対する強い関心があったこと、その点で西田幾多郎と共通する側面があることを指摘した。さらに、その問題関心が、ドゥルーズのスピノザ論、ニーチェ論、『アンチ・オイディプス』における欲望をめぐる考察とどのような関係にあるかを考察した。なお、朝倉は、この研究成果を二本の論文にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
竹内は研究会での報告で、プリンツに代表される情動の哲学での新たな動向と、プラッツの欲望理解の共通点を指摘している。その点で、〈欲望〉の特性が、感情ならびに感情に基づく価値評価との対比を通じてどのように規定されているかを調査するという課題は一定程度果たされたと言える。 他方、リクールのフロイト論を参照して、欲望の記号的性格を解釈学的に明らかにする、という越門担当の課題はほとんど手つかずのまま残された。ただし、ミシェル・アンリの精神分析批判については、研究成果を『現代フランス哲学入門』(2019年にミネルヴァ書房から公刊予定)の解説記事に反映させることができた。 フーコーのミクロ権力論で想定されている欲望とドゥルーズの欲望との比較、という朝倉、越門担当の課題に関しては、ドゥルーズの欲望概念の解明に限って言えば成果はあったものの、フーコーとの比較にまで進めることはできなかった。 2018年度の進捗がやや遅れ気味となった理由は、研究代表者越門の個人的な事情によるところが大きい。所属大学が変更となったことに伴い、年度の後半は、学内業務の引き継ぎや、研究室の引越に追われた。こうした作業は、所属大学への義務を果たし、また、より整った環境で研究を推進していくために不可欠であったとはいえ、多くの時間と労力を要した。そのため、計画通りに研究が進展せず、また、越門に限っては研究成果を論文にまとめることができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は最終年度にあたるので、研究成果を具体的な形にできるよう最大限の努力をする。全員が本研究課題に関わる論文を発表し、特に代表者の越門は、三年間の研究成果を踏まえて包括的な内容の論文の公刊を目指す。また、〈欲望〉をテーマとしたワークショップの開催も検討する。 具体的な方策として、まず、三者が集まる研究会の回数を増やし、研究成果の共有をこれまで以上に迅速かつ確かなものにする。その場では、研究成果を吟味するだけでなく、その公表の方法についても意見交換を行い、社会へのフィードバックが確実かつ有効に実行できるよう配慮する。 研究の内容に関しては、テーマを絞る必要があると考える。当初計画していた、フーコー研究とそれを前提としたメディア論との接続は、これを断念し、朝倉と越門は、ドゥルーズの欲望哲学の再解釈に努める。また、2018年度の開始を予定していた精神分析学の分野への展開は、新たに応募する研究課題において本格的に進めることとし、本研究課題では、アンリとリクールによる精神分析批判の要点を把握することに専念する。
|
Causes of Carryover |
2018年度は2回以上の研究報告会を予定していたが、結局は一回しか開催できなかった。そのため、旅費として計上していた予算が余ることになった。また、フーコー研究の専門家の協力を得るための謝金として計上していた分も未使用のままに終わった。 2019年度は研究報告会の回数を当初予定より増やすことを検討しており、次年度使用額はその旅費に当てることにする。 また、研究報告会にゲストスピーカーを招く予定であり、同使用額は、その旅費と謝金としても使用する。
|
Research Products
(5 results)