2017 Fiscal Year Research-status Report
Phenomenology on Dreaming
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17K02180
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
武内 大 自治医科大学, 医学部, 教授 (10623514)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 公一郎 自治医科大学, 看護学部, 助教授 (00291625)
小林 聡幸 自治医科大学, 医学部, 教授 (70296101)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 夢 / 明晰夢 / 幻覚 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに9回の定例研究会を行なった。第一回(5.31)、「夢の現象学・イントロダクション」(武内)、第二回(6.30)、「他者になる夢の現象学的解明」(渡辺)、第三回(7.26)「明晰夢と魔術的現象」(武内)、第四回(8.17)「夢の中の間主観性」(渡辺)、第五回(10.18)「コルバンのイマジナル論」(小野)、第六回(11.16)「統合失調症慢性形態における妄想発展のメカニズム」(大塚)、第七回(12.13)「同タイトル(続)」(大塚)、第八回(2.6)「夢と精神医学」(西多)、第九回(2.27)「不気味なものの神経症的解決としての夢:フィリップ・K・ディックの病跡」(小林)。 我々の研究全体の理論的支柱となったのは、渡辺の研究である。渡辺は、夢の一般構造を現象学的方法によって取り出し、第一に、夢世界においては準現前化が現在化として成立してしまうという点、第二に夢世界にも間主観性が成立するという点を明らかにした。これらの論点を踏まえつつ、さらに明晰夢という特殊事例について、武内は西洋魔術において語られる「アストラル世界」、小野はイスラム神秘主義研究で問題となる「元型的想像世界」を題材としつつ考察した。 明晰夢は、知覚に劣らぬ程に鮮明であり、少なくとも現象学的な観点からのみでは幻覚との区別が困難である。しかしながら、西多によれば、神経学的メカニズムという観点からすると、夢と幻覚は質的に全く異なるという。精神医学の観点からも両者は截然と区別される。小林は、レジスの夢幻症やマイアー・グロスの夢幻様体験型という夢に似たいくつかの体験例を提示しつつも、それらを幻覚の一端に位置付けることには疑問を呈している。さらに大塚は、ラカンの構造論的精神分析の立場から、非定型精神病における体験が、夢の体験とは類似するものの、統合失調症性の幻覚体験とは質的に異なることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度につき、研究者相互の関心テーマを確認し、全体的視野の中で各人の役割を見定め、課題を探りあてることに目標が置かれた。本研究は以下の四つの部門に分けて進められてきた。(2)を除いてほぼ予定通り順調に進んでいる。 (1)現象学理論部門: 主に渡辺の研究をもとに、夢一般の基本構造について考察した結果、およそ二つの課題が提出された。第一に、夢一般の基本構造として示されたことが、明晰夢という特殊事例においてどの程度当て嵌まるのか。第二に、夢の間主観性が夢世界の客観性的実在を示すのか、或いは筋の共有にとどまるのか。 (2)現象学実践部門: 昨年度予定していたインタビューは実施できなかったものの、案はほぼできあがっている。一方、武内・渡辺・小野の三人で夢日記をつけてきたが、まだ体系的な分析を行っていない。 (3)神経現象学的部門: 夢の神経学的研究を扱った基本文献をいくつか読了し、ディスカッションを重ねた。我々の研究に基礎的な土台を与えてくれたのが、ウルスラ・ヴォス、ゲオルク・ヴォスの論文「明晰夢の神経生物学的モデル」(英語)であり、翻訳作業も進めてきた。さらにトンプソンの著書『覚醒、夢見、存在』からも多くの示唆を得た。この書の中で、トンプソンは明晰夢の問題を神経現象学の観点から扱っている。武内は研究当初、明晰夢を幻覚との類似性において捉えていたが、トンプソンはむしろこうした見方を批判しており、小林、大塚、西多らの諸研究もまた、夢と幻覚の質的差異を主張している。 (4)歴史文化研究部門: 武内は、アストラル旅行と言われる魔術的技法を、体外離脱ないし明晰夢の体験と見做し、さらに空中飛行、変身、精霊との邂逅といった魔術的現象を明晰夢における体験として解釈した。小野はイスラム神秘主義、とりわけイブン・アラビーの幻視体験を、明晰夢と見做し、その文化的・歴史的意味について考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の三つに重点を置いて研究を進めたい。 (1)インタビューの実施: 昨年度実施することができなかったインタビューを実施する予定である。インタビューの主な目的は、①明晰夢における自覚、鮮明性、統御性の相互関連、②明晰夢の統御法、③明晰夢と体外離脱体験の関連を究明することにある。インタビューの基本的方法論として、渡辺他が訳したラングドリッジ著『現象学的心理学への招待』を参照する。本研究では多様性最大化標本抽出法はとらない。全員が共有するような少数の人々の経験について、詳細な記述を発展させるのが目的である。したがって法則定立的ではなく、個性記述的ideographicな方法をとることとなる。倫理的問題、とりわけ①インフォームド・コンセント、②守秘と匿名性、③不快感と危害には十分配慮しつつ調査に臨む。 (2)明晰夢誘導法の模索: スタンブリーズ、エアラッヒャーの論文「明晰夢導入の科学」(現在邦訳中)をたたき台とし、さらに各研究員の一人称的記述、インタビューから得られたデータ、歴史的文献から得た情報を手掛かりに、最も有効な導入法を模索し(武内・渡辺・小野)、さらにその心身面での安全性、危険性についても精神医学的観点から考察することにしたい(大塚・小林・西多)。 (3)共通夢の研究: 「夢の相互主観性」という渡辺の議論を踏まえ、いわゆる「共通夢」の問題を考察してみる。武内は、ウィルビーの研究を参照しつつ、17世紀スコットランドの魔女文化におけるドリーム・カルト、小野はスーフィズムにおける共通夢の訓練法について考察を進める。
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Causes of Carryover |
29年度は、予定していたアンケート調査を実施できなかった。そのため、インタビューに必要なビデオカメラ、交通費、インタビュイーへの謝金の分が余った。また、予定していたHP作成も管理上の問題から断念した。余った分は、基本としてインタビュー資金に充てる予定である。
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Research Products
(21 results)