2018 Fiscal Year Research-status Report
Phenomenology on Dreaming
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17K02180
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
武内 大 自治医科大学, 医学部, 教授 (10623514)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 公一郎 自治医科大学, 看護学部, 教授 (00291625)
小林 聡幸 自治医科大学, 医学部, 教授 (70296101)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 夢 / 明晰夢 / 幻覚 / 睡眠麻痺 / 悪夢 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度の研究実績の最大の目玉は、「心の科学の基礎論研究会」との共催により12月15日に明治大学駿河台キャンパスで行ったシンポジウムである。登壇者は『夢の認知心理学』の著者である岡田斉氏(文教大学)、研究協力者の渡辺恒夫および代表の武内大の三名である。渡辺は、ブレンターノとフッサールの所論を踏まえつつ、想像意識・夢・明晰夢の各志向性の構造を比較し、さらにブログ上の夢日記データを分析する作業等を通じて、夢の「世界」性格を明らかにした。岡田は、実証的方法を用いながらもあくまで「現象」を重視するというスタンスを打ち出し、覚醒時と夢見の間で同じ認知メカニズムが共有されているという神経認知理論に基づいて、夢の想起の頻度に関する調査結果を発表した。武内は、睡眠麻痺という現象から「魔女の襲撃」と「魔女の飛行」という二つの現象について考察し、前者が「覚醒悪夢」、後者が「体外離脱体験」や「明晰夢」に相当することを明らかにした。総合討論では、夢の時間性格、明晰夢の方法論的意義、認知心理学的研究と文化論的考察との相互関連などを巡って有意義な討論が展開された。 定例会では、「明晰夢についてのインタビュー」の実施案、例えば標本抽出法、質問内容等の検討に多くの時間が費やされた。その際、大塚公一郎、小林聡幸、西多昌規、渡辺恒夫からは多くの貴重なアドバイスをいただいた。理論研究の面では、渡辺と小野純一を中心として、ルドルフ・ベルネの著書“Conscience et existence”(2003)の読書会を行った。このテキストの読解作業を通じて、フッサール現象学における準現在化、空想、夢などの位置づけが明確になった。8月15日には、文化人類学者の佐藤壮広氏(立教大学)をゲストにお招きし、「生きる指針としての夢: 沖縄の民間巫者と夢解釈」というタイトルで講演していただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
代表の勤務先が移ることになり、後半はその準備等に追われ、あまり研究を進めることができなかった。 30年度はほぼ現象学実践部門で時間が費やされた。倫理委員会の承認までにはかなり時間がかかり、12月になってようやく承認された。この審査を通じて、インタビューを実施する上で必要な方法論や倫理上の規定など、多くのことを学んだ。 その他の部門の進捗状況は比較的順調である。現象学理論部門では、ルドルフ・ベルネ、ニコラ・ジッペルの著作・論文の読解を通じて、例えばフッサール、フィンク、サルトル、パトチカ、テオドール・コンラッド等々における現象学的な夢理論の骨子がある程度明確になってきた。神経現象学的部門では、ソロモノヴァの学位論文「睡眠と夢見における身体化された心」(2017年)を熟読した。ソロモノヴァは、夢の認知構造を単に神経系との関りのみならず、4EA認知、すなわち(1)身体化された(embodied)、(2)埋め込まれた(embedded)、(3)拡張された(extended)、(4)行為的(enactive)、(5)情動的(affective)認知という観点から全体的かつ統合的に捉えようとした。とりわけ睡眠麻痺と悪夢の問題を扱った第二論文からは大いに啓発された。また、覚醒悪夢や睡眠麻痺に関するチェインの諸研究も参考になった。歴史文化研究部門では、武内が、4EAの(2)の側面を意識しつつ、主に妖精信仰との関わりでスコットランドや東欧における魔女のドリーム・カルトについて研究し、彼らの体験を体外離脱ないし明晰夢の体験として解釈した。しかしそれらの体験が当時の生活スタイルから自然に生じてきたものなのか、それとも儀式や薬物によるものなのかという点については確証が得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
31年度は以下の三つに重点を置いて研究を進め、これまでの総括として、現象学系、心理学系等の学会で積極的に発表を行っていきたい。 1. インタビューの実施。インタビューの主な目的は、①明晰夢における自覚、鮮明性、統御性の相互関連、②明晰夢の統御法、③明晰夢と体外離脱体験の関連を究明することにある。尚、代表の移籍に伴い、新しい勤務先である立正大学で倫理委員会の審査をもう一度受けなければならない。 2. 明晰夢誘導法の模索。主にスタンブリーズ、エアラッヒャーの論文「明晰夢導入の科学」をたたき台とし、さらに各研究員の一人称的記述、インタビューから得られたデータ、歴史的文献から得た情報を手掛かりに、最も有効な導入法を模索し(武内・渡辺・小野)、さらにその心身面での安全性、危険性についても精神医学的観点から考察することにしたい(大塚・小林・西多)。 3. 魔術・神秘主義における幻視文化の研究。武内は、引き続き魔女文化における夢見(幻視)の問題について研究を進める。とりわけ、魔女の飛行体験や夢魔体験の解明を神経科学的観点から試みたビーヴァーの研究、さらに彼の研究を踏まえ、スコットランドの魔女や妖精カルトにおける幻視経験の内実に迫ったグッドエアの研究を追っていきたい。また、イブン・アラビーの幻視体験に関する小野の研究との相互比較も行っていきたい。
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Causes of Carryover |
倫理委員会の審査に時間がかかり、インタビューが実施できなかった。 また代表の武内の勤務先が変わることで、その準備等に追われ、研究に費やす時間が十分に取れなかったことが残金のでた理由である。こちらの残金については、インタビュー実施時の謝金やそれに必要な資料購入代として使用する予定である。
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