2023 Fiscal Year Annual Research Report
A Comprehensive Study of Vasubandhu's Vyakhyayukti
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17K02224
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
上野 牧生 大谷大学, 文学部, 准教授 (70460657)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀内 俊郎 東洋大学, 文学部, 教授 (60600187)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 梵文阿含 / 増一阿含 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は5世紀頃にインド文化圏で活動した仏教僧ヴァスバンドゥ(世親)の『釈軌論』を対象とした文献学的研究である。『釈軌論』は説一切有部に伝承された経典解釈法を体系化した大著であり、5世紀までの北西インド仏教圏域における経典解釈方法論の集大成に位置づけられる文献のひとつである。 ただし、そのサンスクリット原典はいまだ発見に至っておらず、また他の世親論書と異なり漢訳もされなかったため、『釈軌論』の研究に際して参照可能な一次資料はチベット訳に限られる。さらに、ヴァスバンドゥが『釈軌論』にて解釈対象とした阿含経典(広義の説一切有部系)はサンスクリット・漢訳・チベット訳のいかなる言語においても完全には現存しない。そのため『釈軌論』の研究には、サンスクリット原典の不在と、解釈対象である阿含経典の原典の不足という、二重の困難が伴う。したがってその研究にあたり、第一にヴァスバンドゥが引用する阿含経典のサンスクリット文を、第二にヴァスバンドゥ自身による経典解釈のサンスクリット文を、他の文献から回収する作業が求められる。 こうした視点に基づき、2023年度は、『三啓集』をはじめとする新出サンスクリット仏教文献から、ヴァスバンドゥが引用する阿含経典のサンスクリット文を回収した。具体的には、『釈軌論』第1章における『無常経』の引用例、『釈軌論』第2章における華鬘の譬喩を説く増一阿含の引用例のサンスクリットを回収した。また、『釈軌論』第1章の「世尊が同義異語を説く8つの目的」について、ハリバドラの『現観荘厳光明論』から、ヴァスバンドゥ自身による経典解釈文のサンスクリットを回収した。以上の作業に基づいて、チベット訳『釈軌論』の校訂テキスト・和訳の精度を高めるよう努めた。
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