2017 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教の起源―初期キリスト教におけるマタイ福音書受容史から見た一断面
Project/Area Number |
17K02240
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Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
澤村 雅史 広島女学院大学, 人文学部, 教授 (50549326)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マタイによる福音書 / キリスト論 / 三称定式 / 二神的一神教 / Christology / Triadic Formula / Binitarian Monotheism |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、新約聖書・マタイによる福音書の受容史を扱うことにより、キリスト教という宗教の起源についての学術的な探求に寄与することを目的とするものである。 当該年度は、当初の計画に基づき、マタイ福音書受容史の解明にあたっての鍵となると見通される、同福音書のキリスト論の特徴を見出すことを試みた。そのため、同福音書の結語の位置にあるマタイ28:16-20の釈義的な分析を行ったが、それは、この箇所が同福音書のキリスト論を総合する意図に基づくマタイの編集によって構成されているからである。結果として、キリスト教が、母体となるユダヤ教という一個の宗教から分離して成立したという線形的な理解では、マタイ福音書のキリスト論の特徴を捉えきれないことを改めて見出した。そして、同箇所のうち、キリスト教の中心的教義である三位一体論の聖書的根拠として扱われてきた、マタイ28:19bの三称定式(Triadic Formula)が、同時代のユダヤ教、なかでも第二神殿期に成立したと考えられる「二神的一神教」の枠組みから理解可能であることを論証した。このことは、マタイ福音書成立時点において、「ユダヤ教」と「キリスト教」が、確立した宗教主体同士として対立関係にあるのではなく、流動的な境界線をめぐって反発し、影響を与え合いながら自己形成していく過程にあることを示していると考えられる。 すなわち、今後、本研究の目的に向かってマタイ福音書受容史を解明していくにあたって、初期キリスト教文書と同福音書の関係を、キリスト論という指標において評価するという、研究上の視点を得ることができた。 また、国際学会への出席を通して、マタイ福音書の位置づけに関しては学界において極めて高い関心が寄せられており、とくに、上記のような、マタイ福音書の成立を、ユダヤ教およびキリスト教の形成過程に置くという見解に支持が広がっていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、当初計画における初年度の研究目標については概ね達成することができた(ただし、業績公表という点において、学会発表および討議をもとにした論文については、発表を予定していた紀要の編集側の事情により、当該年度内に設定された締切までに原稿を受理されながらも、本報告時点においてなお編集継続中、近日刊行予定である。当該論文については次年度の研究実績として報告を行う予定である)。 研究の最終目的であるマタイ福音書受容史そのものについては、資料収集や他の研究者との意見交換の段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度において見出した研究方法に沿って、マタイによる福音書の受容史を、写本や、使徒教父文書における同福音書の引用の分析を通して明らかにすることを試みる。すでに入手した資料や二次文献の整理と分析を行う。また、マタイ福音書受容史の比較対象として、マルコ福音書の受容史や、ミシュナーの成立についても概観するために資料収集を行う。 また、研究方法の精緻化のための議論や最新の研究動向の把握のため、国際学会へ出席し、研究発表を行う。
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Causes of Carryover |
台湾での国際学会が2018年3月に予定されていたが、2018年10月に延期となったため。
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