2020 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教の起源―初期キリスト教におけるマタイ福音書受容史から見た一断面
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17K02240
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Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
澤村 雅史 広島女学院大学, 共通教育部門, 教授 (50549326)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マタイによる福音書 / イグナティオスの手紙 / 使徒教父文書 / 受容史 / 初期キリスト教 / fiscus Judaicus(ユダヤ金庫税) / 資源動員論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、新型コロナウイルス感染症の影響による学会中止に起因して前年度より持ち越しとなった研究発表を行った。 当初2020年3月に予定していた、イグナティオスの手紙におけるマタイ福音書「受容」に関する日本聖書学研究所例会での研究発表は、度重なる延期により、結局2021年3月に行うこととなった。しかしその間、テクスト分析のさらなる精緻化を試みることができ、また、自説(イグナティオスにおけるマタイ「受容」について、fiscus Judaicusをめぐる社会状況の再構成から説明しようとするもの)を補強する材料としてR.スタークによる紀元1世紀末~2世紀初頭のアンティオキア(イグナティオスの歴史的背景)についての社会学的モデルなどの諸説を新たに見出すことができた。 当初予定の倍の分量となった研究発表において組み立てた仮説は、その有効性について高い評価を受けるとともに、質疑応答においていくつかの有益な批判を受けることができた。とくに、仮説の有効性についてはイグナティオスと同時代かつ地理的にも近い成立事情が見込まれる『ディダケー』に関する分析を踏まえて検討することでより強固に裏付けられることを確認することができた。 冒頭に述べたような経緯、事情からしばらくの間イグナティオスの手紙におけるマタイ福音書「受容」に集中して研究を遂行する必要が生じたことにより、使徒教父文書全体を対象とするという研究範囲の観点からは当初計画に比べ遅滞する結果となったが、「キリスト教」の成立事情の一側面について解明するという本研究の主たる目的については、むしろイグナティオスの手紙に焦点を絞ることによって大きな進展を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したように、研究対象の範囲という観点からは当初計画よりも遅滞している。しかしこれは使徒教父文書全体の中でも「イグナティオスの手紙」に研究対象を絞ったことによるものであり、そこで得られた成果は大きく、本研究の主たる目的の達成という点からは研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、研究自体は主たる目的を達成しつつある。 一方でその成果の公表に関しては今年度もコロナウイルス感染症という外的要因に起因して滞っている。 そのため、補助事業期間の延長を申請し、2021年度に邦語論文としての発表を行うとともに、内容補完および英訳したものを国際学会などで発表することを模索する。
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Causes of Carryover |
招致予定であった国際学会が中止、また、その他の国際学会等も多くが中止や延期となり、発表の機会が失われたため、補助事業期間の延長を申請し、2021年度における国際的な発表の機会を模索する。 またコロナウイルス感染症の影響下の当該年度に行った研究については学内の個人研究費で賄うなどの工夫で科研費支出の削減につとめ、2021年度に活発な研究活動ができるようにした。 2021年度は既に邦語で行った研究発表内容を、質疑応答を踏まえて補完し、英訳して国際学会などで発表するといった研究活動を計画している。海外渡航の制限が続く状況が見込まれるので、研究費については主に英訳校正とオンライン学会の参加費等に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)