2018 Fiscal Year Research-status Report
米国戦争情報局の文化プログラムから検証する冷戦期音楽文化政策の布石
Project/Area Number |
17K02279
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
福中 冬子 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (80591130)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 戦時期文化政策 / アメリカ音楽 / 現代音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は2回の海外資料調査を行ったほか、3回の学会発表を行い、本研究の現時点での成果をまとめ、公表した。 海外資料調査に関してはまず、9月には2週間ほどアメリカ合衆国に滞在し、在ワシントンDC(アーカイヴ資料そのものは隣州のメリーランド)の国立公文書館にて、米国戦時情報局関係の資料調査、およびアーカンソー大学附属図書館にて米国国務省が管轄した文化ブログラム関係の資料調査を行った。前者では事前の情報公開請求が必要な資料を含め、戦時下のアメリカの文化政策(とりわけ著名な米国人音楽家や芸術家を周辺の「同盟国」に派遣し、米国の「高い」文化水準を見せるための啓蒙プログラム)を指し示す非常に貴重な資料を閲覧・複写できた。ただ、戦時情報局自体が複数の前身を持つ機関であるがゆえに、そして芸術系啓蒙プログラムにはしばしば他の局や省が関わっていたため、資料そのものが複数のシリーズ(分類)に分散しており、関連する資料すべてを網羅的に入手できたかどうかはいささか不安な部分を残した。ただ、意図や動機、あるいは効果分析や実際のプログラムなどを示す資料は大量に保存されており、プログラムの主要部分を知るには十分な情報は集まったと言える。他方、この時期には頻繁に起こったことだが、局長や長官、あるいは部署のヘッドが頻繁に交代し、そうした事実関係がどの程度内容の変更や軌道修正につながったのか、あるいは議事録がどの程度実際の実施内容を反映しているのかなど、より詳細に分析・検証すべき問いが残っているので、それらを資料を比較的に読み込むことで引き続き考察していきたい。アーカンソー大学図書館においては、同様のプログラムを国務省の資料から検証した。こちらも膨大な量の資料が保存されており、入手(スキャン)した資料の検証は引き続き行う。 こうした資料調査と前年度の資料調査の結果を国内外の3つの学会で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は2度の海外資料調査を行い、絶対的に入手する必要のあった資料の大半をPDF・複写保存することができたので、2019年度もその検証を引き続き行うとともに、2019年度の海外資料調査の可能性も残しておきたい(上にも書いたように、米国国立公文書館所蔵の資料は複数のシリーズにまたがった保存されているため、いまだ取りこぼしがある可能性は否定できない)。また3度の学会発表で、関連題目の中で、本研究の成果の一部も盛り込んだ発表をすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトは、平成26から28年度の科研費題目(冷戦期フランスとアメリカの音楽政策)の成果を受け、冷戦期の対共産国側への「文化プロパガンダ」プログラムが、冷戦の成立(1950年から)で突如たち起こったわけではなく、むしろ、戦前の文化プログラムの延長線上に、戦略上も、動機上も、制度上も、位置付けられるべきではないかという認識のもとに、行っている。2018年度・2017年度の資料調査を受け、そうした認識は正しいものであることが実証されたが、他方、現在検証している米国戦時情報局は終戦と同時に消滅したわけではなく、国務省と中央情報局へと機能が分割・移譲された。したがって、両機関の戦後の文化政策も継続的に検証することで、戦時情報局の位置付けや役割がより明白に見えてくることが期待される。2019年度はとりこぼした作業と、成果発表の準備にあてるが、2020年度以降の研究計画も同時並行して作成したい。
|
Causes of Carryover |
次年度に必要な物品購入等に充てるつもりである
|