2017 Fiscal Year Research-status Report
アイステーシスの経験と公共性―倫理的なものと美学との相関性をめぐる基礎研究
Project/Area Number |
17K02298
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小林 信之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30225528)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 感性的なもの / 感覚の復権 / レヴィナス / 表象批判 / 超越の享受 / エロス的なもの / 脱内存在 / 痕跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、とくにフランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスの思想を感性的なもの(the sensible)の視点からながめてみることを課題とした。かれの「感性論」は、受動性としての感受性と主体性の概念を根底からとらえなおすようなラディカルな思考につらぬかれている。この意味で感性的なものにかんする主題系はレヴィナスにとって一貫して中心テーマでありつづけたというのが、本研究におけるわたしなりの基本的テーゼである。このテーゼにしたがいつつ、これまでのレヴィナス研究にとっては自明事に属することもふくめ、かれの思想、とりわけ『全体性と無限』と『存在するとは別の仕方で』に結実した思想をたどりなおすことを試みた。そのさい、たえず念頭においた問いは、以下の三点にまとめることができる。 一、そもそもなぜ感覚の固有性がレヴィナスにとって重要性をもつにいたったのか。つまりレヴィナスにとっての感覚経験とは、他者への接近不可能性と内在化の拒否を含意するような、闇にふれる感触を意味していたのではないか。 二、レヴィナスの思想をながめわたしたとき、なぜ倫理的関係の主題化で完結せず、さらに、超越の享受としてのエロス的関係へとすすまねばならなかったのか。つまり感性的なものと超越との関係性にかんする問いである。 三、後期レヴィナスの思想にとって中核的な意味をなす「無関心性(ないし脱内存在)」の概念はカント以来の伝統にかんする本論の議論の全体のなかにどのように位置づけられるのか。 これら三点の問いにとりくむためにまず、レヴィナスにとって感性的なものの問題がどのような文脈で登場するのか、確認する作業からとりくんだ。さしあたりそれは、知覚によってわたしたちの感覚経験がどこまでくみつくされるのかという現象学的問いに集約できるのであるが、そうした論点を起点として今年度は、感性的経験と倫理にかんする二本の論文にまとめ公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、エマニュエル・レヴィナスというひとりの思想家における、とくに感覚をめぐる問題に焦点をしぼり、そこから倫理的な観点との関係を考察するという方向で研究をおこなってきたが、結果的に二本の論文を公開することができた。アイステーシス(感性的なもの)と倫理を主要テーマとする本研究にとっては、本年度になされた内容は、まさに中核部分をなすものであり、まだのこされた課題はあるものの、研究の大きな山はこえたという印象をいだいている。この意味で、完全とはいえないにせよ、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで感覚経験の固有性とその倫理的・社会的含意との関係性といった視点から問題を考察し、とくに方法論としては、大陸哲学、とくに現象学の立場を基本的に固執しつつ研究を進めてきた。今後も、その大きな枠組みと前提に変更はないが、さらにより現代的で、包括的な観点から研究を展開するために、とくにT・ネーゲルなど、英米系の思想家も視野におさめた考察をおこなう予定である。たとえばネーゲルの「コウモリであるとはどのようなことか」という論文の解釈を起点に、いわゆるクオリア(感覚質)の問題を検討し、感覚経験の固有性のテーマをいっそう深化させたかたちで論じる予定である。この問題を考察した研究成果は学会誌などの研究雑誌に公開される予定である。
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Research Products
(2 results)