2018 Fiscal Year Research-status Report
演劇によるダイバーシティ活性化因子の抽出と現実の多様性受容に関する深層心理的研究
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17K02395
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Research Institution | Tezukayama Gakuin University |
Principal Investigator |
猪股 剛 帝塚山学院大学, 人間科学部, 准教授 (90361386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮坂 敬造 東京通信大学, 情報マネジメント学部, 教授 (40135645)
川嵜 克哲 学習院大学, 文学部, 教授 (40243000)
田中 康裕 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (40338596)
石倉 敏明 秋田公立美術大学, 大学院, 准教授 (90649310)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ダイバーシティ活性化 / 理解不能の認識の有用性 / 他者と死者 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、ダイバーシティとその演劇性に関する調査と資料収集、それに加えて実践的研究を実施してきた。いわゆる体験型演劇の鑑賞によるダイバーシティ活性化の分析を行ってきた。 実践としては、春日大社おんまつりや西馬音内盆踊りといった演劇性の高い祭礼によるダイバーシティ活性化因子の比較検討を進めたのに加えて、ドイツにおけるホロコースト施設の持つ演劇性やコンテンポラリーアート施設におけるアーティストによるアートツアーの持つ演劇性を調査対象として研究を進めてきた。 調査因子としては「教化的作用」と「ダイバーシティ活性化作用」という対照基軸を置き比較検討をすすめ、それらがいわゆる深層心理学的な無意識要素の活性化とどのように関わっているのか、その調査を続けている。「ダイバーシティ活性化」因子は、理解から生まれるのではなく、むしろ理解できないことが明らかになって初めて活性化する結果となってきている。 研究の成果は、国内学会一つと国際学会一つにおいて発表し、来年度も国際学会三つにエントリーを済ませている。「共感と共振の差異」や「他者性との出会い」に注目点が置かれ、演劇においても精神分析においても使用されるドイツ語のLehreという概念の持つ二律背反性が、いわゆる知識の伝授ではない自己探索的な教育の可能性を示していることが確認されている。これに加えて、ホロコースト施設における演劇性の研究から、死者としての他者との対話を心理学的に批評し言語化することも進めてきたものも公開されてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究は当初の予定通りに進んでいる。 二年目は、演劇体験の調査と分析を更に進めると共に、研究分担者と共に人類学分野、劇場以外のアート・パフォーマンス分野、臨床心理学分野での調査を進めてきた。医療人類学に基盤を置いて病理的なものと自然なものとの境界をフィールドワークする宮坂と、新構造主義人類学に基盤を置き野性性の立ち現れる祭礼やアートをフィールドワークする石倉とは、それぞれの調査領域を相互補完し、ダイバーシティ活性化因子の比較研究を行ってきた。鑑賞者や儀礼への参加者がその体験を通じて現実を一つに集約させていくのか、あるいは現実が多様性/ダイバーシティを持つようになり、混乱を含みながらも多様化していくのかという観点を持って、一年目に抽出されたダイバーシティ活性化因子の妥当性について比較検討を行われてきた。深層心理学に携わる猪股・川嵜・田中の3 名は臨床面接においてさまざまな症状や病理を示す患者が病理的な一面的な意識から抜け出して回復していくプロセスに注目し、その際に現実が多様化する局面に治療的な転回点があり、そこに現れているダイバーシティ活性化の因子を演劇的なものと比較検討し、ダイバーシティ活性化因子の汎用性についてさらに詳しく分析研究を重ねた。 またドイツにおけるホロコースト施設の演劇性とコンテンポラリーアート施設の演劇性調査と分析が行われることで、研究自体の広がりが生まれた上に、その結果の信頼性も高くなってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、部分的には更に資料収集し、調査を進めていくが、いままでの研究成果を公開し、世に問うことが最も大きな研究課題となる。 猪股が中心となりそれぞれの研究分担者との研究会議を開きデータの解析や比較検討を行っていくが、現時点でもすでに二本の論文が投稿準備されている。国際学会では三つの学会で発表のエントリーが済んでいる。同時に、ホロコースト施設と関連したダイバーシティ活性化に関しては、論文集としての出版の検討に入った段階である。 同時に、調査時の各団体との折衝や鑑賞者や制作者とのインタビューの調整で得られたデータの取り扱いに関しては、発表年度の今年度にあらためて個人情報の保護や著作権への配慮を徹底していく。また、研究成果を専門家だけではなく、できる限り多くの人々に還元していくために、一般公開講演やシンポジウムの形で発表していくことも計画している。
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Causes of Carryover |
一部、分担者の研究旅費に充てられる予定だった予算が、当初見込みよりも少ない支出額で済んだことを原因とする差額である。本差額は、研究最終年度の研究成果発表に関わる経費が、国際学会の発表が多い分、逆に予定よりも嵩むことになる可能性が高いため、本年度に繰り越すこととした。
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