2022 Fiscal Year Annual Research Report
Germans as Refugees on Contemporary German Film: Political Media Studies
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17K02398
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
古川 裕朗 広島修道大学, 商学部, 教授 (20389050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢田部 順二 広島修道大学, 国際コミュニティ学部, 教授 (30299284)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ映画 / ディアスポラ / ホーム / 移民 / ナチ・ドイツ / 東西ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究成果をまとめて『ドイツ映画史の基礎概念 新世紀のディアスポラ』(九州大学出版会、2022年)を出版した。本書は、ドイツ映画賞作品賞の受賞作に関して2000年代の諸作品と2010年代の諸作品との違いを史的展開として捉え、それぞれの傾向を理解するための基礎的な概念的枠組みを提供する。この史的展開の分析考察は〈ドイツ人のディアスポラ〉という戦後ドイツのビッグ・モチーフに着目して行われた。この言葉は1945年の敗戦直後にトーマス・マンがワシントンの講演の中で、ゲーテの言葉を引き合いに出しながら語った言葉である。分析考察の対象として取り上げたのは、「移民の背景を持つ者」「ナチ・ドイツ」「東西ドイツ」という3つの分野を主要題材とする諸作品である。本書では、これらについて「あらすじ」「主題展開」を記述し、「メディア論的考察」を行った。 分析考察の結果として、2000年代の諸作品が総じて〈ホーム〉に帰る物語、〈ホーム〉に気づく物語を描き続けていたのに対し、2010年代の諸作品は最終的に〈ホーム〉を失う物語や新たに〈ホーム〉を築く物語を描くようになったことが確認できた。本書はこれらの史的展開をそれぞれの分野に即して理解できるよう概念的枠組みを提供した。すなわち、「移民の背景を持つ者」を題材とした諸作品に関しては「帰還」から「消失」への、「ナチ・ドイツ」を題材とした諸作品に関しては「和解」から「決別」への、「東西ドイツ」を主要題材とする諸作品に関しては「再生」から「贖罪」への史的展開として捉えた。こうした映画史理解は必ずしも類型的整理を意図しているわけではない。2000年代の諸作品は〈ホーム〉への回帰的な物語構造を備え、物語の円環を閉じようとする一定の着地点を持つ。これに対して2010年代の諸作品はそうした物語の円環を閉じようとする傾向が緩みほころび、開かれた構造を持つことになる。
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