2017 Fiscal Year Research-status Report
井伏鱒二未公開書簡の基礎的研究―文学の生成と「同学コミュニティ」の関係を視座に
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17K02482
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
青木 美保 (秋枝美保) 福山大学, 人間文化学部, 教授 (40159330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平 浩一 国士舘大学, 文学部, 准教授 (00583543)
前田 貞昭 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (60144797)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 同学コミュニティ / 書簡 / 大正美術史 / 大正文学史 / 文学者交流史 |
Outline of Annual Research Achievements |
井伏鱒二未公開書簡(高田類三宛)の翻字作業については、連携研究者・田中雅和氏から得た知見によって翻字本文の改訂作業を進めた。書簡の発信年月日について消印、書簡中に言及された諸事象、同窓生の同定、同窓生の福山中学卒業後の進学先の調査、高田類三の兄弟の動向調査等によって行った。 高田家家蔵資料(高田類三自筆年譜、自筆日記)により、井伏鱒二の年譜の背景的な調査を行った。それにより、最新の井伏年譜を一部書き換える必要があることが判明した。特に、井伏が早稲田大学に進学した後の大正時代後期の動向に改訂が必要である。 井伏鱒二の文学揺籃期における心情、動向が書簡本文から明確になり、文学者として立ちあがる過程が明らかになった。その中で、文学的な手法の模索時代に、種々の芸術への関心が示されていたことが、文学仲間である高田類三への情報共有として見られることが分かった。特に、美術、演劇など、西洋的な芸術文化に対する関心が見られた。当時の文壇の作家たち、志賀直哉、谷崎潤一郎の具体的な作品への言及や、早稲田大学の教授陣、吉田絃二郎、吉江喬松などへの言及、秋田雨雀宅への訪問のことなどが話題として出て来ている。 同学コミュニティにおける高田類三の文学活動が、来簡から見えてきた。そこには、東京の短歌結社のうち、アララギ系、若山牧水の創作社などがあり、また地元広島県内のアララギ系の歌人からのものが多数あり、文学愛好者同士の頻繁な交流の様子が明らかになった。さらに、類三氏自身の歌稿、創作メモ類が多数発見され、地方在住文学愛好家の一典型が見えて来た。また、日記からは、散文創作への意欲も見られ、当時最先端の文化的教養をそこに見ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定した調査は計画通りに実施できた。調査については、高田家家蔵資料調査について、予備調査1回、本調査2回、福山中学同窓生の遺族への聞き取り調査1回を実施した。また、連携研究者田中雅和氏を招聘して、書簡翻字上の諸問題についての専門的な知見の供与を得た(2017年9月20日、宮地茂記念館で実施)。なお、その知見の概要は、『兵庫教育大学 近代文学雑志 29号』(2018年2月発行)に掲載した。 これらの調査の成果の一部は、ふくやま文学館の要請により、企画展「生誕120年 井伏鱒二の青春 未公開書簡(高田類三宛)の中の井伏鱒二」(2017年12月15日~2018年3月4日)で、展示を行うとともに、研究チーム(青木・前田・谷川)によるシンポジウム「未公開書簡群から浮かぶ井伏鱒二の青春像─自伝・絵画・恋」(2018年1月28日 ふくやま文学館研修室)を実施した。 これらの調査の結果、高田家には予想以上の資料があることが判明した。井伏書簡に関連する高田類三の日記、同学コミュニティにおいて独自の活動を行っていた高田類三の歌稿、創作メモ類など、および地方歌人のネットワークを示す多様な文化人(文学者、画家等)からの書簡類が多数新たに発見された。また、高田家に所蔵されている、井伏の創作との関連性も考えられる書物も見られた。これらの資料の有効性を見極めつつ、さらなる調査の必要性について検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、計画書通りに、福山中学・福山中学同窓会・寄宿舎関係文献調査(平成30年9月)を、青木・前田・谷川で実施する。詳細は、下記の通りである。 高田宛書簡では福山中学同窓生の名前が多数出現するが、中退者も少なくない上に、書簡には姓しか記されていないので、個人の特定が難しい。そこで、①福山中学校友会誌『誠之』(井伏在学期間は大正元年4月~大正6年3月。但し、卒業生の動向を報じる欄がある。福山誠之館同窓会架蔵)、②『福山学生会雑誌』(明治23 年~昭和18 年。東京に所在する公益財団法人誠之舎が51 冊架蔵、福山市立福山城博物館が数冊を架蔵)を利用して、書簡に登場する福山中学同窓生を特定し、卒業後の動向を調査する。なお、『福山学生会雑誌』は、旧福山藩主・阿部家が旧藩出身学生のために東京に設けた学生寄宿舎誠之舎の機関誌である。 ただし、東京誠之舎での調査は、予備調査によって必要ないことが判明したため、これは計画から削除し、その予算は別の調査に有効利用する。 今年度計画している研究メンバー全員が参加するシンポジウムは、11月24日・25日に宮地茂記念館9Fで実施することが確定している。これによって、これまでの研究成果の総合をはかる。
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Causes of Carryover |
前田の残額、134,758円は、次の2点の理由による。一つは、『早稲田大学百年史』を古書で購入を予定していたところ、2017年12月4日(月)よりWiki版『早稲田大学百年史』が公開されることとなり、古書による購入を取り止めたこと。二つ目は、『日本難字異体字大字典』元版(36,000円)の購入を予定していたが、同事典のコンパクト版が2017年10月に刊行されることになり、経費が節減できたこと。青木の残額、8,549円は年度末の調査宿泊費に不足したため、別途支払いとしたから生じたものである。 これらの費用は、平成30年度に予定しているシンポジウムの開催費用に充てる予定である。
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Remarks |
ふくやま文学館での展示「井伏鱒二の青春 未公開書簡(高田類三宛)の中の井伏鱒二」(2017年12月15日~2018年3月4日)、及び期間中のシンポジウム「未公開書簡から浮かぶ井伏鱒二の青春像―自伝・絵画・恋」で発表。
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Research Products
(1 results)