2018 Fiscal Year Research-status Report
井伏鱒二未公開書簡の基礎的研究―文学の生成と「同学コミュニティ」の関係を視座に
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17K02482
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
青木 美保 (秋枝美保) 福山大学, 人間文化学部, 教授 (40159330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平 浩一 国士舘大学, 文学部, 准教授 (00583543)
前田 貞昭 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (60144797)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 同学コミュニティ / 大正文学史 / 地域文化史 / 言語・絵画表現史 / 手稿研究 / 書記史 / 井伏鱒二 / 高田類三 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、8月27日・28日、福山誠之館同窓会において、福山中学時代から出京直後までの生活の実態調査を実施、新たな伝記的事実が判明した。 2、9月19日、当該書簡における手書き文字の字体等の問題に関する田中雅和氏(国語史専攻)のセミナーを受けた。 3、上記の成果を踏まえ、研究チームによるシンポジウム「井伏鱒二未公開書簡の基礎的研究―「同学コミュニティ」解明に向けて」を開催。11月24日前半、前田貞昭・田中雅和が「井伏鱒二書簡活字化の諸課題と、井伏伝記研究における書簡の意義」と題して、活字化へ向けた作業を通して、伝統的な手書き文字による書簡群の様相から、井伏の字体の用字意識の特徴、教養の文化的背景について問題提起を行なった。後半、青木美保が「井伏鱒二と高田類三の文化活動─絵画と文学」と題して、福山中学時代の絵画サークルの活動とその後の文学活動について、井伏文学誕生の過程と高田の文学との関係を明らかにした。11月25日 前半、田中淳氏(日本美術史専攻)が「明治末期から大正期にかけての美術と文学」、平浩一が「昭和戦前期文学史上の井伏鱒二」と題してそれぞれ基調講演を行い、本研究の歴史的意義を明らかにした。後半は、本研究成果を総合するパネルディスカッションを行なった。青木が、地域の文学・美術と、東京のそれとの交流が井伏の初期作品創造へと繋がる経緯を実証的に示した。田中雅和氏は、井伏の文字意識について、平は、昭和初年代の文学場に描き出された「井伏鱒二」像と本書簡群との関係について、前田は、伝記的資料としての価値と井伏文学理解への発展についてそれぞれ問題提起した。 4、11月23日~25日、展示「井伏鱒二と仲間達」において書簡と中学時代に関連する展示を行なった。 5、研究成果は、前田貞昭が『兵庫教育大学近代文学雑志』第30号、青木美保が『日本近代文学』第100集に論文等として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先ず、井伏鱒二の中学時代、および中学卒業直後の生活実態が、本調査による新資料の発見によって明らかになり、これまで全く不明であった二十歳前後の井伏の伝記的事実が明らかになったことが挙げられる。 さらに、書簡の宛名人である高田類三について、これまで全く知られていなかったことが幾つかの調査によって明らかになり、高田が井伏文学成立に関る重要な存在であることが判明したことである。それは、「同学コミュニティ」解明と、文化創造における地方と中央との関係解明に新たな資料を提供する。第一に、高田の文学活動が、投稿雑誌の調査によって、井伏のそれに先んじており、福山中学卒業直後には文学活動において高田が井伏をリードしていたことが判明したことである。第二に、高田類三宛の中央の文学者、地方の文化人の書簡の存在が新たに確認され、高田が地方と中央の文化をつなぐ結節点の役割を果たしていたことが判明した。第三に、高田自身による意識的文学活動記録である年譜、および日記が確認され、井伏の動静を知るとともに、井伏文学成立過程を知る有力な資料であることが判明したことである。第四に、高田家所蔵の図書の中に、同時代の文学・美術関系の資料が含まれており、「同学コミュニティ」に共有される文化の性格を知る資料として確認されたことである。それに加えて、高田家が家業と浄土真宗の宗門活動により地域貢献をしてきた家であることが判明し、地域社会と文学成立の関係解明への糸口となることが見えてきたことである。 「同学コミュニティ」調査においては文学と絵画の関係性が新たに見え、明治末期の美術教育による中央の文化の地方への伝播という新たな視野が開けたことが挙げられる。 さらに、当該書簡の活字化の作業において、字体の研究による作家の教養背景と文学創造の関係性を見るという、新たな手稿研究の方向性が見えてきたことである。
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Strategy for Future Research Activity |
先ず、当該書簡の活字化を完成させて、発表用のテクストを作成することである。これについては、これまでの問題提起を踏まえて、活字化の方針を細部にわたって決定するとともに、書簡に登場する固有名詞等の調査で不明の点についての調査を進めて、より完全な注をつけることを目指す。 また、「同学コミュニティ」解明を目指して2年間行なってきた福山中学と福山市内の文化状況の解明を踏まえて、広島県内、広島市内の中学や上級学校における文化活動の状況を明らかにし、「同学コミュニティ」のより広い文化活動状況を明らかにすることである。 方策の一つは、すでに計画済みである広島県立図書館における地域の文化活動の状況を調査することである。これについてはすでに県立図書館所蔵の当該資料について概略を把握している。その調査を進めて、状況を明らかにする。 また、高田類三が師事していた中村憲吉など、関係の文学者の「同学コミュニティとのかかわりの状況を調査して、その範囲を広げていき、共時的研究への方向性を広げる。 さらに、これらの「同学コミュニティ」の解明を通して、地方と中央の文化交流と文学史との関係性をより具体的に示し、大正文学史について、昭和文学史に繋がっていくような新たなアプローチを開く。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、福山中学卒業直後の、東京における井伏鱒二の動向を知るために、公益財団法人誠之舎(発足時は福山地域出身者の寮)所蔵の、誠之舎の日誌、および『福山学生会雑誌』を調査することにしており、東京出張を計画していた。しかし、誠之舎においては移転等の事情で散逸した資料を、福山誠之館同窓会(現・福山誠之館高等学校敷地内)が引き継いだことが分った。つまり、これらの資料の調査は、福山市内の福山誠之館同窓会で行なうこととなった。したがって、東京への旅費として計画していた費用(青木・前田・研究協力者1名)は未使用となった。 その残額の一部は、当該年度実施のシンポジウムと同時開催した書簡等の展示の経費の一部として使用した。また、一部は次年度に計画している報告書作成費の他、前田の資料複写および複写依頼費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)