2017 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イングランドにおけるイスラム演劇の変遷と政治的・文化的推進力に関する研究
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17K02532
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Research Institution | Morioka Junior College,Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
石橋 敬太郎 岩手県立大学盛岡短期大学部, その他部局等, 教授 (80212918)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イングランドの外交政策 / モロッコ / トルコ / イスラム演劇作品 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、ジョージ・ピールに端を発する1590年代初頭に執筆・上演されたイスラム世界を扱った演劇作品『アルカザールの戦い』(1589年頃執筆)と『トルコ皇帝セリム』(1591年執筆)の成立の基盤を当時の公文書や歴史的基礎資料を駆使して、実証的な分析と解明を試みた。ピール作『アルカザールの戦い』については、執筆当時の地中海、とりわけ北アフリカのバーバリー地域を取り巻く国際情勢をもとに分析を進めた。分析の結果として、対スペイン外交上、イングランドがモロッコに軍事的協力を求めていたが、劇中ではスペインとの軍事的協力関係を望むモロッコの外交政策が見出せたことから、イングランドにとってモロッコが信用に値しないパートナーとして描出されていたことを明らかにした。ロバート・グリーン作『トルコ皇帝セリム』については、執筆当時のトルコをめぐる国際情勢をもとに析を行った。分析の結果、劇中のトルコ皇帝位を求めるバヤズィト二世の息子アコマットとセリムの計略のなかに、ステレオタイプ化されたトルコ人像のほかに、トルコの敵国タタール王国やペルシャと軍事的な協力を求める新たな世界秩序を見出した。このことは、トルコとの軍事的な協力を求めるエリザベス政府の外交戦略の曖昧さや矛盾を明らかにしていることを指摘した。 1590年代初頭に執筆・上演されたイスラム世界を扱った演劇作品のほかに、モロッコとスペインとの関係を扱うトマス・デッカー作『欲望の支配、あるいは淫らな王妃』(1600年執筆)にも着目し、劇作家たちがモロッコをどのように描出していたかを時系列的に考察した。考察の結果、スペイン支配をもくろむモロッコ王子エリエーザーを殺害しながらも、モロッコとの関係を追及するスペイン国王フェリペ三世の政策が地中海を取り巻く新しい秩序を描いていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トマス・キッド作『ソリマンとパーシダ』を除き、1590年代初頭に執筆・上演されたイスラム世界を扱った演劇作品ジョージ・ピール作『アルカザールの戦い』とロバート・グリーン作『トルコ皇帝セリム』を当時の地中海を取り巻く国際情勢から分析を行えた。エリザベス政府は、対スペイン外交上、モロッコとトルコとの軍事的協力を強く求めていたが、劇中に描かれているこれらイスラム教国の対外政策は、両国を信用に値しないパートナーとして描出されていることを見出せた。トルコを舞台とした『ソリマンとパーシダ』については、現在、分析の途中にある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、分析途中の『ソリマンとパーシダ』のほか、1600年前後に執筆・上演されたトマス・ヘイウッド作『西の国の美女、第一部』を研究の対象として、モロッコがどのように描かれたのかを当時の公文書や歴史的基礎資料をもとに分析を行う。その分析結果をもとに、1590年前後から1600年前後にいたるまでのイスラム世界を扱った演劇作品のなかで、どのようにモロッコが描かれていたのかを時系列的に論じてみる。そして、対スペイン外交上、軍事的な協力を求めていたエリザベス政府の外交政策の方向転換とともに、劇中に描かれるモロッコ・トルコ表象に変化が生じたことを実証的に明らかにする。 また、ジェイムズ一世の統治に入り、イスラム世界を描く作品の主題がイスラム教への改宗に焦点を当てていることに着目して、作品分析のための準備を行う。そして、ロバート・ダボーン作『トルコ人になったキリスト教徒』(1612年執筆)とフィリップ・マッシンジャー作『背教者』(1622年執筆)の分析につなげる。
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Causes of Carryover |
図書代が割引となったため、次年度使用額が生じた。次年度は図書費を増やすことで対応する。
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Research Products
(2 results)