2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後半のフランス文学におけるワーグナーの影響とその超克
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17K02587
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
三ツ堀 広一郎 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (40434245)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジュリアン・グラック / ワーグナー / パルジファル / シュルレアリスム / 戦争文学 / 第二次世界大戦 / 敗戦 / 心的外傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に実施したフランス国立図書館等での文献資料の調査・閲覧の成果も活かしながら、ジュリアン・グラックの作品におけるワーグナーの影響を再検討した。とりわけオペラ、音楽、祭儀、宗教といった観点から、関連文献の読解をおこなった。そのうえでワーグナーの《パルジファル》の冒頭詩句をエピグラフとして掲げた小説『森のバルコニー』(1957)に焦点をあて、この作品の集中的な読解をこころみた。 『森のバルコニー』は、第二次大戦、とりわけ「奇妙な戦争」と呼ばれた仏独戦線における作者グラックの従軍体験を反映させた小説である。まずはグラックによる従軍体験への言及のあり方を、ドイツ人作家ゼーバルトの『空襲と文学』やアラゴンの小説『レ・コミュニスト』、あるいはサルトルの回想録などとも比較しながら検討し、そこに敗戦による心的外傷が露頭しているとの解釈を提示した。そのうえで『森のバルコニー』を、作者の没後に刊行された遺稿『戦争手稿』(2011)と突き合わせながら読み解いた。 こうした関連文献の読解と分析の成果として、研究論文「ジュリアン・グラックと敗者の想像力――敗戦文学としての『森のバルコニー』」を発表した。この論文は、『森のバルコニー』を「敗戦文学」と規定したうえで、敗戦体験による集合的な、また作者の個人的な心的外傷の描出のあり方が、グラックがそれまでワーグナーの《パルジファル》の書き換えを通して強調していた「傷」のテーマに接続することを論証するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の要というべきジュリアン・グラックの作品について、文献資料の調査・読解に基づき、従来見られなかった新たな解釈を研究論文として発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、本研究課題が戦争と文学の問題、より具体的には、作家は敗戦体験にどう向き合ってきたのかという問い、フランスのみならず日本の戦後文学にとっても本質的な問いへと繋がってくることが見えてきた。こうしたパースペクティブのなかに本研究課題を位置づけ直しながら研究を進める。
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Causes of Carryover |
学務多忙のため、予定していたフランスでの現地調査・文献資料調査を実施できなかった。この調査は次年度に実施したいが、現時点ではコロナ禍のため海外渡航の見通しは立てられない。
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