2018 Fiscal Year Research-status Report
スペイン語圏における俳句受容プロセスの深化と歳時記編纂についての研究
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17K02667
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
井尻 香代子 京都産業大学, 文化学部, 教授 (70232353)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アルゼンチンハイク季語 / アルゼンチン歳時記 / 先住民文化 / 口承詩 / 日系移民協会 / 「草枕」国際俳句大会 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.アルゼンチン 2018年8月19日から8月25日まで,交付申請書「研究実施計画」にほぼ沿った形で,アルゼンチン共和国のブエノスアイレス,トゥクマン,サルタの3都市において招待講演,研究集会,聞き取り調査を実施した。 ブエノスアイレス:日本大使館広報センターで「日本文学につながるアルゼンチン文学」をテーマに,ブエノスアイレス大学特任教授ステラ・マリス・アクーニャ氏,京都産業大学名誉教授今井洋子氏とともに招待講演を開催した。アルゼンチンにおける日本文学の受容によって,価値観や文学観が変容した経緯や詳細を提示し,参加者との意見交換を行った。また東西学院では,研究集会を開催した。 トゥクマン:トゥクマン国立大学で実施した講演では当該大学の教員や学生に加え,近隣の県から多くの学生が参加した。講演後の質疑応答では,日本とアルゼンチンの文学交流を可能にした歴史的プロセスや文化的類似性など,示唆に富んだ意見交換ができた。 サルタ:サルタはアルゼンチン北部に位置し,先住民文化が色濃く残る地域であると同時に,日系移民の文化活動が盛んな都市でもある。日系移民協会で中心的な役割を果たしてこられた比嘉イネス氏のご自宅を訪問し,聞き取り調査を実施した。 2.熊本 2019年3月8日から3月9日まで熊本市役所および「草枕」国際俳句大会実行委員会事務局を訪問し,4名の担当者に聞き取り調査を実施した。日本の自治体として,現在,唯一海外へ門戸を開いている俳句大会の担当者に対し,インタビューを実施し,大会の概要,応募者の地域,言語,審査方針など,重要な情報提供を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年のスペイン(バルセロナおよびアルバセテ)研究調査とその後の情報収集を通じて,現地の研究者との意見交換や文学雑誌 “Barcarola”,スペインハイクのアンソロジー”Un viejo estanque” ,ハビエル・サンチョのハイク研究論集・作品集 “Flor de almendra”などによって,1)地域の季語,2)歌論,3)俳論(芭蕉と弟子),4)俳論(子規、虚子),5)ヨーロッパにおける日本伝統文学受容等に関する研究の深化,多様化を確認することができた。同時に,日本の伝統詩受容によって生じた詩論の変化や自然観の変容がどのようにスペインハイクに反映されているか,そのプロセスによりどのようにスペインの季語が生まれているか等の作品研究も進んでいる。 2018年のアルゼンチンおよび熊本の研究調査では,次のような進捗があった。ブエノスアイレス東西学院研究集会では,アルゼンチンにおけるハイク季語やアルゼンチン歳時記をテーマに,現地研究者5名の研究発表に基づいて意見交換が行われた。アルゼンチンハイクのみならず,アルゼンチン詩全般に目配りをした有意義な資料が得られた。トゥクマンでは,現地の亜熱帯の地理と日本の沖縄との比較がなされ,地域固有の季語をめぐる省察がテーマとなった。サルタでは,先住民文化の特色の一つである口承詩と日本の俳句の類似性が指摘され,またサルタが輩出した多くの現代詩人が果たした役割について興味深い情報を得ることができた。熊本現地調査では,「草枕」国際俳句大会が,1996年に夏目漱石来熊100年記念事業「くまもと漱石博」の一環として立ち上げられ,第1回より外国語部門を設置し23年間継続されてきたことに着目し,どのようなビジョンを海外応募者に発信してきたか,またどのような広報を実施したのかを調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は,研究最終年度に当たる。2019年3月に,これまでの研究を一旦,著書『アルゼンチンに渡った俳句』としてまとめ,アルゼンチンの季語や歳時記編纂の進捗について公刊することができた。しかし,スペインでの調査はまだ地域的な偏りがあり,北部のスペイン語ハイク拠点であるバスク地方の状況については十分な資料が得られていない。そこで可能であれば,次年度8月にスペイン北部の調査を実施したい。その上で,これまでの現地調査と資料収集によって蓄積された文献,資料の整理と分析の結果を,その相互関連性を含めて総合し,日本の古代から近代にかけて成立した詩論や歳時記が,スペイン語圏の各地でどのように受容され,スペイン語の短詩形ジャンルが成立したか,またその過程を通じてスペイン語圏の人々の世界観がどのように変化したかという,文化交流にともなう異文化理解深化のメカニズムを解明したい。さらに,スペイン語圏の人々が,こうした新しい詩学と詩形に何を求め,何を表現しようとしているのかを探り,そこから導き出される現代スペイン語圏文化の特色についての考察をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
物品費に関して、今年度のアルゼンチンおよび熊本の現地調査では、現地実作者、研究者、事業担当者より多くの書籍・資料の寄贈を受けることができた。また、絶版のため購入できなかった書籍や雑誌については、必要な箇所のみを複写で入手する方針に切り替えたことから、費用の節約につながった。 以上の理由により生じた繰り越し分を、これまでの調査でその重要性が判明したスペイン北部拠点の現地調査旅費にあてる予定である。この実地調査(バスク地方)を実施することにより、スペインハイク実作および日本伝統詩学研究のより包括的な調査結果を得ることができると考えている。 人件費・謝金は次年度に予定されている研究補助者雇用に充当する。
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Research Products
(4 results)