2018 Fiscal Year Research-status Report
An phonological analysis of fluency disorders and its application.
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17K02696
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Research Institution | Niigata University of Rehabilitation |
Principal Investigator |
氏平 明 新潟リハビリテーション大学(大学院), 医療学部, 客員教授 (10334012)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 発話の非流暢性 / 吃音 / 語アクセント / 複合語アクセント / アクセント型 / 声調言語 / 声調 / 発話の非流暢性の引き金 |
Outline of Annual Research Achievements |
吃音のセルフヘルプグループである名古屋・岐阜言友会から,趣旨と個人情報漏洩防止を説き,成人吃音者12名の連続発話に現れた非流暢性190例を録音した。そのうち純粋な名古屋岐阜方言話者の発話を厳選し,9名153例の非流暢性生起の引き金をこれまでの研究代表者の先行研究に基づく指標,共鳴音阻害音間の音声の相互移行と有標の音節構造での躓き,で分類した。この153例中の12例(8%)がこれらの指標から外れていた。対象の名古屋岐阜方言話者の採取例全体のアクセント型を連携研究者の田中真一神戸大学教授が分析した。そしてその結果12例はすべて語頭の第1モーラに繰り返しがあり,そのアクセント型が,第1モーラ直後と第2モーラ直後にピッチ変化を持つものだった。前者が2例,後者が10例である。これは氏平(2000)の統計分析と一致する。またその中の「ううううみうみれいかい(海例会)」という非流暢性は,話者が「うみ(海)」のHLの語アクセント型を複合語アクセントの「うみれいかい(海例会)」のLLHLLLに当てようとして,Hの「う」3回繰り返し,HLの「うみ」を出力し,そして複合語の「うみれいかい」LLHLLLを出力している。それを聴覚印象と音響分析のピッチ曲線の軌跡で明らかにした。これは氏平(2000)の中国語吃音,zongzongti(總總体)が声調を誤り第1声で発し,その後第2声に修復して語の声調を完成させたのと同様である。即ち吃音にはピッチの誤りによる非流暢性がある。これはアクセント型が異なる日本語の方言では,方言で吃音の非流暢性が異なる事を示唆している。例えば京阪方言では「うみ(海)」の語アクセントがLLで「うみれいかい(海例会)」の複合語アクセントはLLHLLLなので,名古屋方言例のような非流暢性を生じ難い。この研究をPAIK(関西音韻論研究会)25周年記念大会で発表し手応えのある反応を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
吃音とアクセントの研究は,名古屋・岐阜方言の成人吃音者の非流暢性の録音例を約300以上,20名以上からの採取を分析対象とする計画である。したがってもう2回,ヘルプセルフグループで録音採取をして,採取した全発話の語句と全非流暢性の語句を対照させて,どのアクセント型に非流暢性を多発するかを見る。またPAIK25周年記念大会で発表したように,非流暢性生起の引き金の類型化と序列化を試み,ピッチ変化がどのように非流暢生起に関与しているかを見て,論文化する。 中国における中国語の吃音収集と分析に関し,現地の協力者として連携研究者の東京外国語大学花薗悟准教授から,中国での日本語教育関係の調査で貢献した岡山大学大学院社会文化学研究科に留学中の長春理工大学外国語学研究院院生の斉笑一氏を紹介,推薦してもらった。面接等を経て,彼に中国での交渉と通訳と翻訳を依頼し,契約を交わした。当初雲南省大理の吃音矯正施設で録音採取予定であったが,施設が閉鎖状態なので,大理の施設に紹介された西安口語学校と交渉し,西交利物蒲大学(西安交通リバプール大学)の徐志紅博士にも口添えいただいたが,録音採取の承諾を得られなかった。現在は,長春口吃学校と,学校同士の交換交流という形で交渉中である。成立すれば夏までに録音採取を終える予定である。この交渉がうまくいかなかったら順次中国大都市の口吃学校とアプローチを考慮駆使して交渉していき,許可を得たら今年の秋までに録音採取を終える予定である。 この吃音者の発話の非流暢性生起に関わるピッチ変化の様相を含めた成果を吃音の直接法のセラピーに生かすモデルづくりを連携研究者の国立リハビリセンター学院の坂田善政博士と今年度計画していたが,この実施が来年度に持ち越される見通しで,研究期間を1年延長することになる。
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Strategy for Future Research Activity |
岐阜・名古屋方言の吃音者の非流暢性とアクセントの研究は対象の人数と録音採取例を増やして,途中成果で発表した分析方法で研究を完成さす。中国語の吃音採取は現地で,岐阜・名古屋方言話者と同様,20人の吃音者300の非流暢性例(語句頭に非流暢性の生起位置があるもの)を採取録音し,その録音採取の全ての発話語句の第1音節,第2音節に注目して,その全体の声調と非流暢性関与の声調の生起率を対照させて,非流暢性関与の多少を判断する。この場合語句頭の音節内で途切れた非流暢性は,まずその位置での音声の移行(分節素の音韻素性の移行)を見る。そしてその未熟な意図した音節の声調を可能な範囲で推測する。これらから発話の非流暢性生起に関わる音声の移行と音節の声調生成の過程の関りを明らかにする。以上から岐阜・名古屋方言の吃音者の非流暢性生起のアクセント関与と中国語の吃音者の非流暢生起の声調関与をピッチ変化に基づいて対照し,言語間の吃音生起に関わるピッチ変化の共通性と個別性を明らかにする。この国際的な研究成果は,国際会議での発表または海外の専門誌への投稿を通して海外に発信する。 以上の研究成果を発話の非流暢性生起に関わる音声の移行も加えて,非流暢性生起の引き金とし,その類型と非流暢性生起の強弱の序列を明らかにして,吃音者への直接法(言語症状に直接アプローチする)によるセラピーモデルを構築し,そのスクーリングを実施する。
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Causes of Carryover |
2018年度に計画していた中国における吃音者の発話の非流暢性調査と録音採取が2019年度にずれ込んだために,その海外調査と録音採取,録音サンプルの翻訳解読に関する費用を 2019年度に回した。これは中国へ出張する研究代表者と連携研究者,二人分の出張費用で,これには中国国内での旅費と日当等が含まれる。また中国の口吃(吃音)学校や語学校との交換交流費用,録音施設借料や録音作業の協力者と被験者約20人以上への謝金,通訳費用,録音の中国語書き起こし費用が見込まれる。また国内で研究成果を発表する学会参加費や出張費用も含まれる。
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