2021 Fiscal Year Research-status Report
An phonological analysis of fluency disorders and its application.
Project/Area Number |
17K02696
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Research Institution | Osaka Shin-Ai College |
Principal Investigator |
氏平 明 大阪信愛学院短期大学, その他部局等, 研究員 (10334012)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中国語の吃音 / 顕在的修正 / 音声の移行 / 声調 / 吃音の引き金 / 発話の非流暢性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は未完成だった自然発話における中国語吃音の録音資料収集とその転写ならびに記述と分析に集中した。中国河南省鄭州の吃音矯正の学校、創辯鄭州煥錦口吃矯正中心(代表汪立彬)に依頼して取り寄せた中国語(北方方言)母語の成人吃音の非流暢性サンプル、東京外国語大学大学院の中国人留学生(鄭州出身)に依頼して鄭州で録音した同じく成人吃音者の発話の非流暢性を含む録音を、東京外国語大学大学院と拓殖大学の中国人留学生の協力の下に、転写した。対象の発話者は17名で、語句の発話の非流暢性サンプルは435例である。そして17名の吃音者(中国の吃音矯正施設の評価に基づく)の発話の非流暢性の特徴を記述し、統計分析した。これまでの3名の中国語母語吃音者の発話の非流暢に基づくケーススタディから、予測したように、中国語話者の吃音は複雑な音声の移行と声調生成の一般的な規則から外れる声調変化の不規則性が引き金となっていることが、合計20名の吃音者から明らかになった。また今回入手した吃音サンプルの分析から、いくつかの発話の非流暢性で、音韻プロセスの音声の移行で躓いたのちに、明らかに自分の発話の聴取による顕在的修正(Overt Repair)を行っている例を発見した。他の言語の吃音者にはあまり見られない傾向だった。以上の結果に、これまでの研究で明らかになっているプロソディと発話の非流暢性関連事項を加味した内容の発表を招待講演で披露した。その演題が「発話の非流暢性と音節構造:英語・日本語・朝鮮語・中国語を対照して」である。これまでの4か国語(日本語、英語、朝鮮語、中国語)の発話の非流暢性に現れる各国語別、吃音者と非吃音者別の共通事項と個別事項を新たにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、一定数の中国語の吃音サンプルが、他の3か国語(日本語、英語、中国語)との対照研究に不可欠だったので、それを一定数収集することができた。この研究の目標は以下の5つの手順とその結果である。1つ目はこの4か国語の吃音者と非吃音者の比較を通して、4か国母語の吃音者に共通する吃音の引き金と各国語母語の吃音者の個別的な引き金を明らかにする。2つ目は非吃音者の発話の非流暢性についても同様な共通の引き金と各言語の個別的な引き金を明らかにする。3つ目は吃音者と非吃音者の比較から吃音者の発話の非流暢性の症状とその背景に潜む要因との関連を明らかにする。4つ目は非吃音者の分析から言語の構造の相違がどのようにその言語の非流暢性に反映するかを明らかにする。そして最後はその成果を吃音治療における直接法の基礎資料としてモデルを構築する。 以上の目標のための4か国語の発話資料が収集され整った。そして4か国語の発話の非流暢性に共通な引き金は、音声の移行である。吃音者は隣接する共鳴音と阻害音間の移行が、非吃音者は隣接する共鳴音同士の移行が引き金となる。個別言語的な相違は発話の非流暢性の形態がプロソディの構造を反映していることである。特にリズムの単位が発話の非流暢性の分節単位に反映している。そして吃音者と非吃音者では音声の移行による引き金とプロディを反映している引き金との生起率が異なる。吃音者は音声の移行による引き金が優位であった。これは各言語で共通である。一方のプロディによる引き金については、今年度入手した中国語の吃音サンプルと日本語の吃音サンプルで共通の背景が伺える。ともにプロソディにピッチの変化を利用しているからである。この統計的分析と考察が次年度の主な課題となる。そして直接法のセラピーモデルは明らかになった引き金を除去または緩和することを目標に作成する。したがって研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で述べたように、吃音者の発話の非流暢性の引き金は、特定の音声の移行とプロソディの変化や複雑さによることが明らかになっている。このプロソディに関わる引き金について新たに入手した中国語吃音サンプルとこれまでの日本語吃音サンプルとの比較と統計的な分析から、中国語吃音と日本語吃音の引き金の共通性と個別性を探索する。共通なところは、中国語と日本語は発話に置いてピッチ変化で生じる何らかの機能を利用することである。相違するところは、中国語のピッチ変化は語彙の弁別を、日本語のピ一変化は語句の目立ち(アクセント)を形成することである。そのピッチ変化が発話の非流暢性生起に関わるところで、共通性と個別性が明らかになる。もう少し掘り下げると、共通するところは変化や複雑さが非流暢生起に関わることで、異なるところは、ピッチ変化の機能に基づいた非流暢性の形態になると予想できる。音韻単位は中国語が音節で、サンプルの日本語がモーラである。今後の研究の推進方策の第1として、この具体的な詳細、中国語サンプルのみに見られた顕在的修正の背景も含めて、を明らかにする。第2に、4か国語の発話の非流暢性の引き金の背景として共通するもの、個別的なものをまとめる。第3に、その中から日本語について、発話の非流暢性の軽減あるいは緩和の方法として、その引き金に対応操作する、言い換えれは、その引き金に介入するセラピーモデルの構築を言語聴覚士の資格を持つ大学等の教員と協力して作成する。第4に、以上の研究成果を個別にあるいはまとめて内外の学会で発表または学会誌に投稿する。そして全体を専門家を対象とする高度な専門書として出版する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、中国河南省鄭州へ吃音者の発話の非流暢性収集に直接出向く計画であったが、コロナの影響でそれがかなわなかった。そこで資料収集の段取りをつけたコーデネーターと発話資料提供者に謝礼(謝金)を支払い、発話資料をICレコーダーで録音し、送付してもらった。その渡海予定費用から、提供したICレコーダーの購買費用と謝金を差し引いた金額が残り、次年度に繰り越しとなった。
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