2020 Fiscal Year Research-status Report
「長い70年代」の東西欧州知識人交流から人権規範・実践のグローバル・ヒストリーへ
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17K03179
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松井 康浩 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (70219377)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ピータ・レッダウェイ / パーヴェル・リトヴィノフ / スティーヴン・スペンダー / ゲルツェン財団 / Index on Censorship / 長い1970年代 / 異論派 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、英文書籍としての出版を目指している原稿の主要な章の執筆を終えることを作業の中心に据えつつも、新たにその所在を把握したソ連異論派に対する西側支援者の個人文書や関係資料を収集するための海外調査をも併せて実施することを予定した。西側支援者のうち、以下の3人とそのプロジェクトがその対象である。まず、ソ連の代表的な異論派でニューヨークに移住したパーヴェル・リトヴィノフやヴァレリヤ・チャリッゼを支援し、彼らと出版活動(フロニカ出版の設立)を展開したエドワード・クライン(1932-2017)の個人文書(コロンビア大学所蔵)、リトヴィノフの支援要請に応えて「作家学者インターナショナル(WSI)」を設立するとともに、その機関誌Index on Censorshipを刊行した英国のスティーヴン・スペンダーとその事業に関わる文書(ロンドンのビショップゲイト図書館所蔵)、上記二つの事業にも深く関わりながら、幅広い異論派支援活動を展開したロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教員のピーター・レッダウェイ(1938生)の個人文書(ジョージ・ワシントン大学所蔵)の3つである。 上記2番目の資料調査は、2020度末にも調査を予定していたが、パンデミック発生のためにキャンセルを余儀なくされたものである。ただ、今年度もパンデミックが収束することはなく、いずれの海外調査も未実施に終わったため、成果原稿の執筆をも先送りせざるを得なくなった。 そこで本年度は、上記の海外調査による資料に依拠しない部分(序章、第1章、最終章)の構成の再検討と、関連する先行研究などの渉猟、整理を実施した。その作業の成果の一部は、「ソ連研究の新たな地平:記憶・遺産・帝国」と題した論稿にまとめ、国際政治学会の学会誌『国際政治』の特集号の序論として刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の最終目標は英語でのモノグラフの出版である。その一部をなす論文の公刊は実施できたが、その他の主要な章の執筆状況は芳しくない。その理由のひとつには、パンデミックのために海外調査が滞り、研究の過程でその所在を把握した新たな資料の収集作業が完全にストップしていることがある。 そのため、本年度は、当該資料に依拠することなく執筆がある程度可能な部分の章構成を再検討し、議論を固める作業を行ってきた。その過程で力を入れたのは、全欧安保協力会議(CSCE)での熾烈な国家間交渉の模様とそのヘルシンキ最終議定書調印(1975年8月)にいたるプロセスにおける西欧諸国の外交当局の動きとそれに一定の影響を及ぼした可能性がある西側市民社会、市民やメディアの動向調査である。本研究が焦点を合わせて研究を進めてきたソ連異論派を支援した西側知識人のプロジェクトが、西欧諸国のCSCE政策にどのようなインパクトを与えたのかという重要な問いがそこに浮かび上がり、その検討のために、これまでのCSCEに関わる研究の主要部分をフォローし、検討した。この作業は、英文モノグラフの最終章の記述に大いに生かせるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もパンデミックの収束が見込めず、本研究を遂行する上で欠かせない海外資料調査が困難なため、すでに着手してきた残りの章の執筆を行い、海外調査が可能になって以降、できるだけ早い段階で、英文モノグラフの完成が果たせるよう執筆作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
2019年度末からのパンデミックにより予定していた海外出張が実施できず、そのため研究計画にも遅れが生じている。予定していた研究成果をあげるためにも、パンデミックの収束をまって海外調査を行う必要があり、次年度に予算を繰り越すこととし、認められた。 ただ、現時点では、予定している出張先の感染状況に著しい改善がみられているとはいえず、繰越予算により海外調査が引き続き実施できなかった場合、執筆した原稿の翻訳ないし英文校閲その他に充当する予定である。
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