2021 Fiscal Year Research-status Report
「長い70年代」の東西欧州知識人交流から人権規範・実践のグローバル・ヒストリーへ
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17K03179
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松井 康浩 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (70219377)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Peter Reddaway / Pavel Litvinov / Stephen Spender / Karel van het Reve / Edward Kline / 長い1970年代 / 異論派 / Index on Censorship |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代後半以降、言論・表現の自由を核とした基本的人権を擁護し、当局の迫害に抗したソ連異論派の言論活動と、それを支援した西側知識人・市民の越境的実践及び両者による共同プロジェクトの実態を描き出すグローバル・ヒストリーの試みである。 特に注目するのは5人の人物とその活動、そして彼らが作り上げた人的ネットワークである。ソ連異論派の代表的人物で、後に米国に移住してソ連の人権擁護活動を続けたPavel Litvinov、1967年-68年にモスクワに滞在してリトヴィノフを含む異論派との交友関係を築き、帰国後に異論派文献を出版する「ゲルツェン財団」を設立したライデン大学教員Karel van het Reve、1930年代から知られた英国の詩人で、リトヴィノフの要請に応えて国際支援委員会「作家学者インターナショナル(WSI)」を立ち上げたStephen Spender、LSI教員で、著名なソ連研究者として様々な異論派支援活動に深くコミットしたPeter Reddaway、父親の事業を受け継いで衣服チェーン店の社長を務めつつ、ロシアやソ連に関心を抱いてロシア語を学び、ニューヨークで異論派関係文献を刊行するフロニカ出版をはじめとした支援事業を展開した米国人Edward Klineである。 本年度は、研究期間を1年延長し、パンデミックにより中止を余儀なくされた海外での資料調査を再開することで、当初予定していた研究成果をあげる計画を立てた。しかし、感染状況が改善することなく再度海外調査が実施できず、今年度は、海外調査によらずに取り組める執筆できる部分の執筆に取り組み、出版を目指している著書の序章を書き上げることができた。それに加え、本書全体のコンセプトや骨子をまとめた原稿を執筆した。後者は、岩波書店から継続的に刊行されている『世界歴史』全24巻の第23巻に発表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の最終目標は英語でのモノグラフの出版である。その一部をなす論文の公刊はすでに実施できたが、その他の主要な章の執筆状況は芳しくない。その原因のかなりの部分は、長引くパンデミックのために海外調査が実施できずいくつかの重要な資料の収集作業及び資料の検討が完全に止まってしまっていることがある。 そのため本年度は、全体の構成を今一度再検討し、海外調査により入手を予定している当該資料に依拠することなく執筆が一定程度可能な部分の執筆作業に着手した。その作業により、出版を計画しているモノグラフの「序章」については執筆を終えることができた。さらに、本書全体のコンセプトや骨子をまとめた原稿「ソ連の異論派と西側市民の協働:揺らぐ冷戦構造下の越境的ネットワーク」を執筆した。これは、岩波書店から継続的に刊行されている『世界歴史』全24巻の第23巻に発表される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年にわたり続くパンデミックの収束がまだ見込めないため、もう一年の研究期間延長申請を行い、認められた。ただ、本研究を遂行する上で欠かせない海外資料調査がいつ実施できるのか見通すことが困難なため、今年度も引き続き原稿の執筆作業を中心に行い、海外調査が可能になり次第、できるだけ早い段階で海外調査を実施し、研究成果をあげるよう努めたい。
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Causes of Carryover |
2020年当初からのパンデミックにより予定していた海外出張が実施できず、そのため研究計画にも深刻な遅れが生じている。予定していた研究成果をあげるためにも、パンデミックの収束をまって海外調査を実施する必要があり、次年度に予算を繰り越すことが認められた。 ただ、現時点では、予定している出張先の感染状況に著しい改善がみられているとはいえず、繰越予算により海外調査が引き続き実施できなかった場合、執筆した原稿の翻訳ないし英文校閲その他に充当する予定である。
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