2020 Fiscal Year Research-status Report
Judicial Policymaking in Japan and the United States
Project/Area Number |
17K03320
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
秋葉 丈志 早稲田大学, 国際学術院, 准教授 (80453009)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政策形成型訴訟 / 司法審査 / マイノリティの権利 / 同性婚訴訟 / 一票の格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本国内の5地方裁判所で提起された同性婚訴訟について、原告代理人の弁護士にオンラインで聞き取り調査を行うなど、移動のできない制約のある中で、可能な調査を継続した。弁護団や原告が司法にどのような役割を期待して、またどのような戦略をもって訴訟に当たっているかは、当研究の中心的な視点であり、これに資する有益な聞き取りを行うことができた。 またアメリカでは、同性婚を合衆国憲法上の権利とする2015年の判決に引き続き、既存の公民権法の規定を同性愛者・トランスジェンダーにも適用する合衆国最高裁判決が2020年に出ており、この判決について分析し、判例評釈を執筆した(本年秋刊行予定)。政策形成型訴訟の視点の一つとして、訴訟で得られた成果がその判決一件の結果に限られないこと、より広い政策上(立法上)の影響や政治的・社会的影響を持ちうることが挙げられる。このため、同性婚訴訟を契機としてその後の諸政策における影響を探ることも重要であり、この判決はその一環として重要な意義を持つ。 さらに、アメリカ合衆国最高裁判所の現在の情勢について(ロバーツコートの特徴・傾向について)調査を行い、研究会で報告した。当研究の視点の一つとして、政策形成型訴訟に対応する裁判所自身の役割観がある。合衆国最高裁判所の構成が保守化する中で、これまでと異なる役割観が前面に出てくるのか注目しており、その一環としての報告であった。 このほか、当研究のケーススタディの一つとして掲げている一票の格差問題について、日本国内の判例の源流とも言える、米国の初期(20世紀半ば)の判決を検討し直し、米国での議論やこれを日本に「移入」することについてクリティカルに検証する論稿を執筆した(こちらも本年秋刊行予定)。 また、国籍法の国籍喪失規定に関する集団訴訟についても調査を行い、関係団体の主催による支援者・当事者向けの講演(オンライン)の講師を務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来は米国に複数回出向いて、現地の弁護士や支援団体への聞き取り調査を行うことを企図していたが、年度内を丸ごと通して、新型コロナウィルスの蔓延により出入国が制限され、断念せざるを得なかった。 また国内5か所で提起された同性婚訴訟についてもそれぞれ現地に出向いて裁判を傍聴し、弁護士や支援団体にインタビューなどをする計画だったが、国内でも緊急事態宣言また所属機関の方針により移動が制限されており、オンラインで可能な範囲でインタビューをする形となった。 このような状況で、研究計画の要である現地調査には大きな支障が生じ、オンラインや文献による可能な範囲での調査に留まった。一方で、研究計画に即した調査・研究並びにその成果の研究会での報告や論文の執筆は「概要」に示した通り、上記制約の下でも着実に続けており、総合的には「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
せっかく海外(米国)現地調査に赴くことを研究計画及び支出計画の中心に据えて採択された研究であるから、現地調査に赴くことを目指して「待って」きた。オンラインでの調査に比較して、実際に関係者のもとを訪ねた方が得られる情報が多いからである(たとえば事務所内外に置かれている啓発資料の入手や、そこで働いているスタッフとの接触、コミュニティの雰囲気の把握など)。 しかし、新型コロナウィルス蔓延により、2020年度は丸一年国内外の移動に関する制限が改善せず、2021年度が延長による最終年度となるので、やむを得ず下記の善後策で対応する。 聞き取り調査に要する時間とその後これを分析に生かす時間を考えると、海外での現地調査はほぼ断念せざるを得ない。このため、米国の弁護士や支援団体にもオンラインで聞き取り調査ができないか、打診する。国内に関しても未だに(5月時点)訴訟が続いている各地へ東京から出張調査ができる状況になく、オンラインによる聞き取りに焦点を絞りたい(但し8-9月に可能であれば現地にも赴きたい)。 このような形で、9月までに聞き取り調査を行い、残りの期間を分析と成果の取りまとめに当てたい。なお並行して、これまでの成果物をもとに、発表の場などを求め、より多くの研究者や関係者と成果の共有を図りたい。
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Causes of Carryover |
国内外(特に米国)の出張費を積んでいたが、2020年度は新型コロナ蔓延により一度もこうした出張ができなかったため。今年は海外分もオンラインでの聞き取り調査に切り替え、その書き起こしの費用に充てるほか、国内については8~9月に可能であれば(たとえば同性婚訴訟については北海道、愛知、大阪、九州のうち可能な箇所が生じれば)現地に赴きたいと考えている。
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