2019 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス・生活困窮者の居住実態と改善施策に関する法社会学的検討
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17K03321
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ホームレス / 住所 / 居住 / 社会的排除 / 包摂 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①日本のホームレス及び生活困窮者の居住実態を社会調査によって明らかにし、②それに基づいて効果的な居住改善施策を検討することを目的としている。 本年度は、ホームレスに関するこれまでの研究成果を論文で公表するとともに、問題関心を自らの中で深化させた。すなわち、論文としては、長谷川貴陽史「身分証明・自己排除・支援―元ホームレスへのインタビューを素材として―」法と社会研究4号89-113頁(2019年5月)を公表した。上記論文では、(a)生活保護を受給してもなお住宅に定住できない元野宿者の生活実態を分析・考察するとともに、(b)法を支える市民社会のありようが重要であるという指摘を行った。前者(a)の検討からは、ホームレスに住居を提供する、いわゆる「ハウジング・ファースト・アプローチ」だけでは十分なホームレス支援につながらない理由を示し得たと考える。また、後者(b)の市民社会の意義については、2019年5月から10月まで、オックスフォード大学・法社会学研究センターにおける在外研究期間中に、市民社会論研究を行いつつ、考察することとなった。その考察の成果の一端は、国際基督教大学における公開シンポジウム「「社会的なるもの」と法学―成熟した市民社会とは何かを考える」における報告「グローバル化の進行と市民社会概念の現在」で披露した(2019年12月13日)。 なお、2018年5月17日にスペインのオニャーティ国際法社会学研究所で開催されたワークショップでの報告「政治権力に対するホームレスの抵抗:日本と米国における予備的研究(The resistance of the homeless against governmental power: a preliminary study in Japan and the United States)」の活字化作業は、なお継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていると言わざるを得ない。 進捗している点は、第1に、ホームレスについて、居住実態、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態、戸籍や住民票の有無や位置などに関する面接調査が、絶対数は多くなくとも進行している点である。この結果、生活保護を受給した元野宿者を収容する福祉施設自体の居住環境が劣悪であることなどを明らかにできている。第2に、居住実態調査と並行して、従来の日本の居住施策についての検討、すなわち、自立支援施設、簡易宿所、無料低額宿泊所、公営住宅などの先行業績の整理を進めている。第3に、上記「研究実績の概要」にも記したように、国内で1回の学会報告を行うと同時に、論文1本を公表しているためである。 ただし、課題もある。第1に、ホームレスの面接調査について、絶対数がまだ少ない。その主な理由は、前年度と同様に、被対象者であるホームレスがこうした調査に応じてくれない場合があること、また、コミュニケーションを円滑に行うことが困難なホームレスが少なからずおり、たとえ面接に関する心理的障壁がなくとも、有意なデータを確保することが難しいことにある。これらに加えて、5月から10月までイギリスで在外研究を行い、そこでオックスフォードのホームレス支援団体の協力を得ようとしたが、残念ながら成功しなかったこと、またその期間、日本のホームレスに関する調査は停止していたことがある。 第2の課題は、やはり前年度からの課題であるが、ホームレス状態にはない生活困窮者について、聞き取りが遅れていることである。前年度も述べたが、生活保護受給者の母集団リスト等は入手できず、ホームレス支援団体の活動に参加している元ホームレスとの接触の機会も少なかったことが一因である。こちらも、ホームレス支援団体の協力を得て、引き続き生活保護受給者からの聞き取りを増大させることに専心したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策であるが、前述の「現在までの進捗状況」における記述とも関係するが、前年度と同様、第1に、調査対象区域を拡大しつつ、ホームレスの居住実態、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態、戸籍や住民票の有無や位置などについて、面接調査を継続したい。とりわけ、被調査対象者本人の意思やプライバシーを尊重することは絶対条件として、対象者の絶対数を少しでも増やすことに専心したい。 第2に、簡易宿所や無料低額宿泊所等に対する面接調査を実施したい。質問内容は、賃料、生活保護費との関係、居住環境、居住の満足度、就労先との地理的関係などである。また、民間賃貸住宅については、わが国では連帯保証人が確保できないなどの理由から、生活保護受給者による利用はしばしば困難であるが、ホームレス支援団体などの支援により民間賃貸住宅を利用する例もある。その点の実態を支援団体や不動産業者に対する面接調査によって明らかにしたい。 なお、調査結果の一部は、国内の学会(日本法社会学会)やその機関誌、または『法と社会研究』などで公表してゆきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額1628円は、物品費(消耗品費)の計算間違いにより生じた。 今年度は過不足なく費消するように留意したい。 (ヒアリング等に費用が不足する場合には、私費等により補いたい)
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