2018 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of the record books of German arbiters (Schiedsmänner) at the end of the 19th century - Empirical study of the history of dispute resolution outside the court
Project/Area Number |
17K03323
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
松本 尚子 上智大学, 法学部, 教授 (20301864)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 自治体調停 / 裁判外紛争解決 / 和解率 / 司法利用 / ドイツ / 19世紀 / 治安裁判所 / ヴァルデック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀ドイツ各地に導入された地域型調停制度の運用実態を、残存する調停記録帳から分析するものである。交付2年目の2018年度は、記録帳からサンプルとなる自治体を抽出し、紛争内容、当事者の社会的属性、当事者同士の関係、和解率等の傾向を分析した。具体的には、申立件数の最も多い時代からのサンプルとして選んだ1850年のヴァルデック侯国ニーダーヴィルドゥンゲン治安裁判所記録に収録された203件の調停記録を分析した。 結果、申立ての多数を占める紛争類型は、全体の約7割を占める「金銭支払い請求」(131件)であり、なかでも典型的な小作料・薬代・飲食代の請求においては、多くのケースで4~8人程度が一時に呼び出され、新たな履行期日や分割払いを約束して和解に至るケースが典型的であることが分かった。この「金銭支払い請求」事件の和解成立率は77%と極めて高い(申立件数を母数とした場合。被申立人の総数を母数とすれば値はさらに高くなる)。一方、紛争項目のなかで次に多い「侮辱事件」(13件)での和解率は54%で、支払い請求よりも20ポイント以上低い。また、家族間紛争や労使間紛争は、申立て件数そのものが極端に少ない(給与支払い請求4件、扶養請求1件等)。一方、1年のうちに3回以上申立てを行う「常連」が15人存在し、そのほとんどが飲食店や薬局の所有者や「親方」といった有産者かつ社会的地位のある人々であることも分かった。女性が当事者になることは比較的少ないが、夫の代理で出頭するケースは頻繁にみられる。 これらの結果は、「利用者の視点から見た紛争解決制度」という研究アプローチからみて重要な成果である。現在のところ、サンプル自治体における調停には社会的地位のある人々による利用が多く、逆に労使間における被用者側のような社会的弱者の利用が少ないことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、2018年度もマールブルク公文書館で史料収集にあたった。8~9月に行った今回の調査では、記録帳収集と並行して、サンプル自治体の地域情報や当事者の個人情報、サンプル国の司法制度に関する情報を収集した。なお、公文書館から新たに別の自治体の調停記録がいくつか見つかり、昨年の統計結果に若干の修正を施した。が、修正後も統計調査結果の大筋には影響がない。 [計画の微修正] 本研究ではもともと「19世紀末」の調停とりわけプロイセンの勧解人記録帳を調査する予定であったが、昨年度に同公文書館で見つけた19世紀中葉のヴァルデック侯国「治安裁判所」(実質的には調停機関)の記録が思いのほか多く、何よりその記録帳に記された事件数があまりに多かったため、本年度は、調査の重点を19世紀末から19世紀中葉に移すことに決めた。これによりヴァルデック侯国の治安裁判所記録に集中して内容的分析を行うという方針もたった。さらに、勧解人記録帳が予想外に多く見つかった場合の対策として、研究計画書にすでに記したように、記録帳の内容的分析(各事例の分析)方法をより合理化することにした。まずは大きなスパンでの推移をつかむべく、1850年と1880年の統計をとり、さらに両年における全事例の手跡解読も完了した。 一方、当初の研究計画では、勧解人区ごとの和解率や当事者の社会的属性などの分析を行うために、統計分析ソフトを用い、クロス集計表を作成する予定であったが、申請金額に対して支給額が削減されているため、現在までのところは断念している。 研究成果としては、法文化学会からの委託を受けて法文化叢書第17巻を編集することになったことから、こちらに本研究の暫定的な結果をまとめた論考を寄稿した(本年夏刊行予定。)また、2019年1月、マックスプランク・ヨーロッパ法史研究所で本研究の事例分析を中心とした報告を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
本科研費交付最終年度に当たる2019年度も、おおむね研究計画書に記したとおりに研究を進めていく予定である。
|