2020 Fiscal Year Research-status Report
明治期の日本人留学生のドイツにおける法学博士学位の取得とその法史学上の意義
Project/Area Number |
17K03334
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
高橋 直人 立命館大学, 法学部, 教授 (50368015)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ドイツ法学の継受 / 西洋法史 / 日本法史 / 近代法史 / 大学史 / 法学教育 / 明治 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度においては、現段階での研究成果を、高橋直人「『独逸法学博士』と明治期における日独間の法学交流」(石部雅亮責任編集『法の思想と歴史』創刊第1号、信山社、2020年12月)として公にできた。同論文を通じ、主として、①明治期にドイツにおいて法学博士の学位を取得した留学者たち(以下、「学位取得者」)の全体像と各人に関する基本データ、②明治期の高等教育制度・学位制度のもとでの私立学校出身者の学位取得の困難さ(※「学位取得者」の多数を私学出身者が占めている)、③旧大垣班系の「学位取得者」と彼らの置かれた明治期の日欧交流の人脈、④ミュンヘン大学への留学者たちに対する当時の学界における刑法上の「学派の争い」の影響、を明らかにすることができた。次項で述べるように、昨年度までの本研究計画の遂行においてドイツ側の史料の収集・分析の進捗に対して日本側の史料のそれが遅れ気味であったという問題も、上記論文執筆を経て一定程度は解消に向かいつつあると考えられる。 なお、これまでの計画では、本研究課題の成果の公表媒体としては報告者の所属機関の紀要をひとまず想定していたところ、上掲『法の思想と歴史』という学界での注目度のいっそう高い基礎法学分野専門の学術雑誌(かつ紀要とは異なり、書店を通じた商業ベースでの販売も広く行われている雑誌)への掲載が実現したことは、本研究課題の成果の社会への還元という意味において有益なことである。前出の論文は、たしかに本研究課題に関する現状での暫定的成果を公表したものであり、最終的な到達点ではない。しかしながら、その意味するところは、次年度に追加的に達成できる研究成果の可能性が様々にあり得るという意味でまだ到達点ではないということであって、全90ページに及ぶ同論文の内容そのものは、本研究課題の最終的成果としても十分に通用する水準であるという点を付言しておく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前項で取り上げた通り、今年度においては、本研究課題の現時点での成果を前掲「『独逸法学博士』と明治期における日独間の法学交流」という論文として公表することができた。前述のごとく同論文の内容がそれ自体としては本研究課題の最終的な成果としても通用し得る水準にすでに達していると考えられることからすれば、研究の進捗状況は、全体としてみれば順調である。 その一方で、この間の新型コロナウイルス禍の影響により、当初の研究計画で想定していた成果と上記論文の段階での成果との間には、ある程度の範囲でずれがみられる。端的にいえば、今年度にドイツでの現地調査を断念せざるを得なかったことの影響によるところが大きい。具体的には、これまでに主要大学のうちゲッティンゲン、ミュンヘン、ハレ・ヴィッテンベルク、ハイデルベルク、ライプツィヒおよびエアランゲン・ニュルンベルクの各大学について調査済みであるものの、明治期の日本人の留学先として重要な大学のうち、まだベルリン大学やイエナ大学等の調査については実施することができていない。 ただし、コロナ禍のもと、今年度においては国内での史料収集や国内の関連研究の分析にエフォートをより多く割かざるを得なかった(割くことができた)ことから、結果的にではあれ、日本側の史料や先行研究の収集・分析が想定以上に進んだということにもつながっている。たとえば、刑事法分野の「学位取得者」や旧大垣班系の「学位取得者」に関しては、日本側の史資料の収集・分析の進展が前出の論文に反映された。過年度の報告書においても言及しているように、これまで本研究課題の遂行にあたっては、ドイツ側の大学に所蔵されている史料の収集・分析が進んだ一方、日本側の史料の収集・分析が比較的遅れていた面が元々あった。この問題点が一定の解消に向かったことは、好ましい傾向である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の進捗のために考慮すべきは、明治期の「学位取得者」のドイツにおける活動実態(特に学位取得の経緯)に関しては基本的に順調に解明が進んできた一方、それに比べると、①「学位取得者」の留学前・留学後の日本における活動実態についての研究、②現地での学位取得を理解する上での背景となる当時のドイツの高等教育制度・学位制度一般に関する研究については、現時点では取り組みが進んでいない部分も少なくないということである。 ①に関しては、前出のように今年度にコロナ禍の影響もあって日本側の史料・先行研究の収集・分析に注力した結果、一定の解消がみられたところである。引き続き、特に「学位取得者」の多くが「私学出身」の「実務家」という属性を共通的に有している点に鑑み、当時の私立学校出身者の置かれた状況や法律家・法学研究者としてのキャリアのあり方、帰国後の実務における彼らの活動実態について調査を深めていく。②に関しては、たとえば当時のドイツ諸大学の学位授与状況のより詳細な把握に必要な史料に加え、19世紀・20世紀における個別大学・学部の状況に関する先行研究がさらに必要である。 上記①および②のいずれに関しても、国内外の大学文書館・図書館をはじめとする関係諸機関への出張を通じた調査の機会をより多くもつことが望まれる。しかしながら、次年度におけるコロナ禍の状況については予断の許されないところである。仮に次年度に調査が大幅に制約されても(とりわけ国外調査については実施を断念することになったとしても)、たとえばWebの活用を通じて入手可能な史料や購入可能な文献の収集を進め、可能な限り状況の改善に努めることとする。また、国内外の研究者との意見交換や情報・アドバイスの獲得についても、必要に応じて、Zoom等によるオンラインでの交流が実施可能である。
|
Causes of Carryover |
今年度においては新型コロナウイルス禍の影響のもと、ドイツでの大学文書館・図書館の調査の実施を中止したため、その分の予算が執行されなかった。これについては、前項までの箇所においても言及した通りである。また、国内の機関が対象となる場合も含めて、コロナ禍の現状のもとでは出張しての調査自体が様々に困難を伴うことから、そもそも今年度には出張調査を基本的に自粛し次年度に状況が改善した場合に調査を行う方が適切であると考え、予算も次年度のために可能な限り温存するという判断を行った。これをふまえ、2021年度には、可能な場合にはドイツでの調査の実施を追求し、それが難しい場合にも国内での調査を、とりわけ岸小三郎や鳥井誠哉等の旧大垣藩関係者や大場茂馬・山岡萬之助らの刑法家についての史料収集を中心に進めることを計画している。 なお以上に加え、家庭の事情ではあるけれども、2020年2月に出生した次男の育児と、3歳の長男の育児のためにも相当の時間を割くこととなり、特に出張調査をはじめ予算の執行を伴うような研究活動が当初予定より限定的にしか行われなかったという事情も、次年度使用が生じたことに一定の影響を与えている。
|
Research Products
(1 results)