2019 Fiscal Year Research-status Report
「世帯」の家族法史――20世紀日本の家族法判例と家族法学の史的展開――
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17K03338
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
宇野 文重 尚絅大学, 文化言語学部, 准教授 (60346749)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 明治民法 / 身分法学 / 「家」制度 / 扶養 / 家族法学説史 / 明治前期下級審判決 / 一子相続法 / 中川善之助 |
Outline of Annual Research Achievements |
継続して取り組んでいた明治前期下級審裁判例について、扶養(老親、子ども等)に関する訴訟および単行法令の分析を進め、明治民法における扶養法規定についてその構造的特徴について検討した。以上の検討結果を、2019年6月比較家族史学会にてシンポジウム報告を行った。また同シンポジウムの全体討論では、現行家族法における扶養法規定との連続性・非連続性、また近世史との連続性、さらに社会学的観点からの世代間扶養等との関連性から議論に加わった。 また、これらの研究成果から新たに二つの論点・課題を見出した。 第一に、扶養法における「世代間扶養」の要素と明治民法の「家」的要素を分析するにあたり、親権者における扶養義務と戸主による扶養義務との構造の違いについても検討したことから、親権者の権利性と義務性についてより多角的な分析を課題として見出した。その議論の一部は、宇野文重著「書評 小沢奈々「穂積重遠の『親権論』」(『法制史研究』69号掲載予定、2020年)にて執筆し公表予定である。 第二に、明治民法扶養規定に対し「扶養義務の二類型」を提唱した中川善之助の学説研究を進めていくうえで、中川身分法論における相続法理論について、より積極的な検証の必要性を確認した。具体的には、中川の一子相続・農地相続に対する見解は、1930年代のドイツの一子相続法の受容や植民地調査も含めたフィールドワークに影響を受けた可能性があること、さらにこの点は戦後の「農業資産特例法案」に対する中川の理論を分析するにあたっても有用であると考えている。この論点については、松本尚子/レオ・フォリャンティ編『20世紀例外状態と総力戦体制における日独法学』(2020年度中刊行予定)に掲載する論稿で発表することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
松本尚子/レオ・フォリャンティ編『20世紀例外状態と総力戦体制における日独法学』(2020年度中刊行予定)に掲載する諸論稿について、2019年11月にワークショップがドイツで開催され(日程が合わず原稿提出のみの参加)、ドイツ側の研究者との議論を踏まえて、相互に研究内容を深化させることとなった。 具体的な手順としては、11月に提出した拙稿に対する意見に対するリプライの必要性、またさらに拙稿に対応したドイツ側の研究者の原稿を確認した上での執筆となるため、全体の進捗に遅れが出ている。いずれもより内容を充実させるために必要なプロセスであり、そのために相互に実りある意見を交換したための遅延であるため、研究全体にとってはプラスに作用している。
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Strategy for Future Research Activity |
松本尚子/レオ・フォリャンティ編『20世紀例外状態と総力戦体制における日独法学』(2020年度中刊行予定)に掲載予定の論稿においては、明治民法における「家」制度の二重構造(戸籍としての「家」/世帯としての「家」)、1920年代~40年代の司法および立法における「家」と戸主および「世帯」概念の展開、ドイツ相続法の受容などについて論じる計画としている。この論稿を中心に、同書の共著者である日独双方の研究者と議論を重ねながら、「家」制度と「世帯」概念の関係について研究成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
本事業2年目の2018年度にスタートした日本の法制史研究者とドイツの法学者・法史学者・日本研究者との共同研究に参加することとなり、共著の執筆に向けて、2019年度に2回の研究会を開催した。2回目の研究会では日本人研究者側から執筆原稿(日本語・英語)を提出したが、そこでの相互の議論内容やそれに対応したドイツ人研究者のリプライの原稿(現在執筆中)を確認した上で、さらにお互いの執筆原稿をリライトすることとなった。そのために2020年度に再度英文校正等に関する費用が必要となったため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(3 results)