2018 Fiscal Year Research-status Report
憲法学における共時的なコミュニティ・モデル構築のための基礎研究
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17K03342
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
糠塚 康江 東北大学, 法学研究科, 教授 (60237790)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 礼子 駒澤大学, 法学部, 教授 (70275931)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地方公共団体 / コミュニティ / 議会 / パリテ / 女性議員 / 地域の利益 / 性別役割分担 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、当研究テーマにとって、注目すべき2つの法律が制定された。1つは、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(平成30年法律第28号)であり、今1つは、「参議院議員定数6増の公職選挙法の一部改正法律」(平成30年法律第75号)である。前者は政党の努力にゆだねる理念法ではあるが、「日本版パリテ法」であり、後者は、参議院議員選挙の比例代表の定員を4増して特定枠を導入する改革を実施するもので、この改革の正当化のため、「地域」の利益の擁護が掲げられたことに特徴がある。 共同体アレルギーがある日本の憲法学におけるコミュニティの居場所を探る本研究は、コミュニティにおける女性の存在・役割に注目することで、前近代的な共同体とは異なるコミュニティの可能性がありうるという仮説を立てている。この着目点からすると、上記推進法の制定は、一つの足掛かりになる。 2018年度の大山による業績は、地方議会議員選挙への本法律の適用を分析することで、脱共同体の可能性を示唆するものとなっている。現在地方議会は議員のなり手不足で、無投票選挙区が増大し、住民の無関心を助長するという悪循環に陥っている。推進法によって女性の参入を後押しすることにより、意識改革を図り、既得権益代表の地方議会からの脱却を図るという展望が開かれるという。 政治社会・市民社会・市場・家族の各分野を貫いている性別役割分担は、それぞれが互いを強化する役割を果たし、強固に構築された意識である。この改革の一歩にとなる可能性を推進法は秘めている。この意味で、本研究と憲法学を架橋する法律が制定されたことの意義は大きい。この意義を論ずる業績は、2019年度に公刊される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来であれば、昨年度末のフランスでの調査の成果をまとめることが予定されていた。ところが、前記2つの法律が制定され、本研究とのかかわりにおいて、これらの法律の分析と日本社会に於ける意義を明らかにすることが時宜的に必要とされたことから、こちらを優先させたため、調査結果のまとめは、まだ公表に至っていない。 また、フランスで得られた成果―proximite、bassin de vie―を用いた、日本のコミュニティについて実態を調査する予定であったが、これに赴くことができなかった。他方、前記2法律の適用をめぐって、政党へのアンケートを実施し、地方議会議員や女性市民団体関係者との意見交換の機会を得て、日本のコミュニティの実態の把握に努めることができた。 以上の点から、「やや遅れている」という進捗状況にした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は上記2法律に基づく選挙が実施されるため、引き続き行方を注視するとともに、そのインパクトがコミュニティに与える影響について考察を進めたい。 フランスで得られた成果を何らかの形でまとめることも、課題となる。本研究は、もとより基礎研究の域を出ないことが当初より予見されていたが、コミュニティの脱ジェンダー化の道筋を展望することをとば口に、他の領域へのインパクトを含めた論理を追求することを試みたい。本年度は、学会発表や研究会での報告の機会を得ることが予定されている。これを工程表に組み込み、課題を理論的に昇華し、他の研究者との意見交換を通して、一定程度の見通しを得る方向にもっていきたい。
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Causes of Carryover |
国内自治体の現地調査に赴く時間的余裕がなかったため、予定より支出が抑えられた。また、当該年度においてアンケート結果の公表のための冊子体の印刷が年度末になったため、支出に抑制的であった。 今年度は、学会報告を含め、コミュニティ研究の部分的なまとめを行うため、さらに理論的な文献調査に注力する。そのための費用および研究会参加費用に充てることになる。
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Research Products
(10 results)