2017 Fiscal Year Research-status Report
脱植民地化時代における空間秩序の位相―実効性なき領域秩序の可能性―
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17K03391
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
許 淑娟 立教大学, 法学部, 准教授 (90533703)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 領域法 / 植民地主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、植民地化以前の非ヨーロッパにおける領域秩序を現代の領域法や海洋法によって適切に評価することができるのか、その可能性と限界の探求にある。したがって、①アジアの地域研究の知見および②海洋法条約の成立前史を二次文献(論文・判決)を中心に、領域法の視座より分析を行う手法を取る。 平成29年度は、その目的達成のために、具体的には、①植民地化以前のアジアにおいて、〈領域に該当するものは何か〉、〈領域へと読み替えられる「何か」は何だったか〉を主たる問として、東アジアの植民地化前後の対外関係についての歴史的な地域研究の業績、とりわけ、万国公法の受容に関する二次文献の再検討に充てた。それと並行して、②植民地が関連する国際判決の再検討を行った。 前者については、全般的な国際法の受容のみを扱っては本研究課題に十分にこたえるものではなく、具体的な局面における非ヨーロッパにとっての国際法の扱われ方を吟味する必要があるものの、そうした歴史学的な知見を渉猟することができなかった。前者で得られるであろう知見を見通しながら、後者の判例検討へと有機的に連携させるポイントを抽出する予定であったが、前者の作業の進捗が不十分であったため、論点を整理するにとどまった。それら判決からは、Uti Possidetis原則の拡大適用、animus occupandiやact a titre de souvereinという形で当事国の主観的な意図への着目、territorial domainおよび人的な結びつきといった、「伝統的」な概念を用いながら、主権の表示アプローチを非典型的な領域支配に対して適用していることが確認できた。これらは、主権の表示アプローチのヴァージョンにとどまるのか、あるいは、主権の表示アプローチを空洞化もしくは変質を及ぼしているのかを、植民地主義、脱植民地化の文脈から検討することにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れた理由は、内容的な困難さと時期的な制限の二点である。 時期的な制限は、平成29年度後半は勤務校からの在外研究のための業務に集中しなければならなかったという事情によるものである。しかしながら、勤務校における在外研究の研究目的も本研究と連携しており、まったく作業が止まったわけではないが、物理的な作業時間が取れなかったことは悔やまれる点である。 より根本的な原因である内容面の困難さであるが、植民地化以前のアジアにおいて、〈領域に該当するものは何か〉、〈領域へと読み替えられる「何か」は何だったか〉を主たる問として、東アジアの植民地化前後の対外関係についての歴史的な地域研究の業績、とりわけ、万国公法の受容に関する二次文献の再検討に充てたが、日本語や英語で入手可能な二次文献では、全般的な国際法の受容にとどまっており、具体的な局面における非ヨーロッパにとっての国際法の扱われ方を扱うものにアクセスすることはできなかった。したがって、歴史的知見を背景として国際判決の再照射を行うという作業を行うことができなかった。そのため、あらためて、植民地主義に関連する国際判決における論点を抽出するにとどめることにして、改めて分析軸の立て直しを図りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
植民地化プロセスにおける具体的な事件における各国の領域法に対する概念および観念を逐一抽出するといった歴史学の全般的・本格的な検討は困難を極めるという認識から出発し、歴史学者とのより積極的な協働、二次文献の渉猟を試みる。少なくとも、ソウル国立大学において、国際法学者である李根寛教授の協力を引き続き見込め、また、歴史学専攻者である大沼巧氏の協力を受けることができることになった。 さらに、来年度後半からは、英国ケンブリッジにて判例研究を中心とした研究の機会が予定されている(国際共同研究強化)。その間、直接的に本研究課題に従事することはできないが、英国での研究を十分に生かすために、国際判例に現れる植民地主義の問題点を体系的に整理する作業を行うことにしたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度後半は、勤務校の在外研究課題に集中する必要があったため、本研究課題に従事する期間が制限されたためである。また、歴史関連図書の購入・複写に費用が掛かると想定していたが、研究環境の変化に伴い、研究計画に適切な歴史的な資料を見つけることができず、資料整理のための人件費も用いることはなかった。 平成30年度も後半は、国際共同研究強化の研究課題に従事することになるため、平成30年度前半に、ソウル大学に滞在しながら、集中的に課題に取り組む予定である。 したがって、旅費・滞在費を使用する予定であり、必要に応じて、ソウルにおいて入手可能な資料の購入費・複写費に29年度に使用できなかった額を充てることにしたい。
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