2018 Fiscal Year Research-status Report
人口減少社会におけるサービス保障の契約手法-英・コミッショニングの法的研究
Project/Area Number |
17K03407
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
国京 則幸 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10303520)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コミッショニング / 地方自治体 / 保健福祉局 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、イギリスの医療の実態と「保障」の法的構造=「コミッショニング」の理解を深め、あわせて福祉サービス領域におけるコミッショニングの基本的な理解に努めた。 コミッショニングは一般に、地域住民のニーズの捕捉・評価/サービス計画の立案/サービス提供者との契約・サービスの調達/サービスの質の監視・評価、という一連の循環型プロセスを意味する。しかし現実には、きわめて複雑・多様でありかつ継続的な営みとして理解すべきものであるため、まず、当事者関係(提供責任者-サービス提供者)とその責任の範囲を確定することが必要となる。 NHSの場合、(1)(提供)責任者として、①NHSE(NHS England)、②CCG(Clinical Commissioning Groups)、③地方自治体が、(2)サービス提供者として、①GP診療所、②NHST、③NHSFT、④特別保健当局、⑤その他の民間サービス提供者などが存在している。NHSのコミッショニングについて、これら当事者(間)における、責任者の決定過程、契約などを軸に、その構造および法的な問題を検討した。 社会福祉サービスは、全国レベルで、NICE(National Institute for Health and Care Excellence)やCQC(Care Quality Commission)の関与を受けつつ、地方自治体が責任者となり各種サービス提供者とのコミッショニングが行われる。そして現在、保健・医療と福祉とのより調和の取れたサービス提供のために、特に、地方自治体内にある保健福祉局(health and wellbeing board)においてCCGとの協議が行われるなど、地方における様々な機関が福祉のみならず医療におけるコミッショニングにも大きな影響を及ぼし、重要な役割を果たすようになっていることを理解した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度までに、医療(NHS)と福祉のコミッショニングの基本構造について理解を深めることを目標としていた。これに関して、医療および福祉のコミッショニングの構造について、その当事者関係や契約内容にかかる一定の検討を行うことができた。とりわけ、福祉サービスのコミッショニングの構造、そしてNHSのそれとの異同を検討する中で、地域住民へのサービス提供において地方自治体(≠NHSの地方の機関)の役割が重要になってきている点を再確認できた。医療の実質的な作用がNHSの地方機関(e.g. CCG、NHSFT)に移行されてきている点に加え、具体的に、地方自治体が、国の制度であるNHSの業務の一部を担うことになっていること、さらに、保健・医療と福祉サービスとの調和のために地方自治体の保健福祉局が調整の場になり、福祉のコミッショニングに直接的・間接的に影響を及ぼしていることが分かった。そして、これまでの研究を通じて、NHSの「法化」ともいえるような状況が具体的に進行していることも再発見した。ただし、その「法化」はあくまでもイギリス的な、ダイナミック(動的)なものであり、現場の担当者や実務家の一定の裁量の下での責任・判断を基礎としたものである点などは注意を要する。そしてこのようなコミッショニングの構造と内容を、過渡期の変容ととらえるか一つの到達点とみるのかは、さらに検討を進める必要がある。 このような点から、2018年度の研究計画であった福祉のコミッショニング検討の基礎はおおむね順調に研究が進んでいるといえる。 他方、コミッショニングそのものではないが、イギリスにおける地方自治体内での医療と福祉の協調のしくみは、一つのモデルとしてそれ自体、今後研究を進める日本の医療と福祉との包括的なサービス提供の枠組みの考察でも示唆に富むと考えられるため、この点についても研究を深めていくことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに理解を深めてきた医療と福祉のコミッショニングの仕組みを前提に、2019年度は、主として、コミッショニングの法理論について研究を行っていく。制定法に基づき当事者関係を整理するとともに、調査を踏まえ、各決定過程や契約内容についての資料を収集し、分析を行う。また、NHSの「法化」のようなものが進んでいると考えられるものの、日英の法制度の違い、とりわけ「契約」や「義務」といった用語・概念の違いを踏まえてどこまで正確にイギリスの仕組みを法的に理解・説明できるかが重要となるため、法理論の分析の際にはこの点に注意を払うことにしたい。さらに、コミッショニングに関連する裁判例等を収集、検討していく。 他方で、これらイギリスの医療および福祉のコミッショニングの理解に加えて、(日本の)地域包括ケアシステムに関する(法)制度や問題状況の検討についても本格的に着手していく(年度後半以降)。2018年度には、日英のかかりつけ医制度の比較を軸に、日本での「かかりつけ医」制度の展開の検討に着手している(研究成果の一部は、「社会保険静岡特別研究会」にて発表済)ので、さらに検討を進めていくことにする。イギリスでは、かかりつけ医となるGPが医療と福祉との連携のキーになると考えており、これに、コミッショニングにおける地方自治体(保健福祉局)の役割などがどう関与するか、という点なども踏まえ、検討を行っていく。 そして、これら研究成果を、所属する研究会等で報告し、論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
予定していた専門知識の供与にかかる謝金や資料整理のために確保予定だった学生への資料整理の依頼をできなかったことによる。次年度使用額として繰り越す予算は、渡英調査研究費用および本年度の研究計画にある英国医療保障または福祉関係文献・資料購入費(物品費)として利用予定である。
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