2018 Fiscal Year Research-status Report
Study of the corporate governance in the behavioral perspective
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17K03463
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
行澤 一人 神戸大学, 法学研究科, 教授 (30210587)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コーポレートガバナンスコード / Comply or Explain |
Outline of Annual Research Achievements |
Comply or explain (COE)メソッドに基づくコーポレートガバナンス・コード(コード)の運用において重要なのは、各対象会社(以下、会社とのみ記す)に、コード諸原則の適用に際して十分議論を尽くさせることを通して、自らにとって最適なルーティンを発見させることである(行動主義的理念)。ところが、近年、欧州を中心に、コードの運用の形骸化が指摘されてきており、中にはCOEメソッドから離れてコードの強行法規性を高めようとする動きも見られる。しかし、このような動きは、COEメソッドが本来有する上記のような行動主義的理念を後退させるものであり、コーポレートガバナンスを硬直化させるものとなる。 思うに、会社がコードの原則に真摯に向き合うとすれば、レピュテーションリスクも考慮して、そうすることが資本コストを上回る便益をもたらすと考えるからである。それゆえ、費用便益という観点からコード諸原則を不断に見直していくことが必要であり、そのためには、経営諸科学の進展や成果を常に積極的に参照する必要がある。 このことを考える上での興味深い例として、アメリカの上場企業や巨大金融機関を対象に行われた最近の実証研究において【Bhagat/Bolton】*1、会社の将来業績に対して一貫して積極的な有意性を示すガバナンス指標は「取締役による自社株保有」であることが改めて示されており、また、デンマークにおける実証研究として、一定のコード諸原則については、COEに基づく会社の応答と会社の業績との間に有意の連関性が認められることを示す論文も発表されている【Caspar Rose】*2 。 *1 https://doi.org/10.1016/j.jcorpfin.2019.04.006 *2 European Management Journal,Vol.34,No.3,2016,p.202
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)英国、EU及び加盟各国におけるComply or Explain(COE)メソッドに基づくコーポレートガバナンスコード(コード)の運用実態の相違あるいは改正動向についての比較法的研究を行い、総合的な知見を得た。すなわち、コードは、その法的枠組みないし構造、内容、実効性を担保する手段等において、国ごとに大きな差異があり、また同じ国のコードについて見ても、その内容が時代と共に大きく変化を遂げている。そのため、SOEによるコードの運用の有効性を評価するためには、コードを抽象的かつ全体として見るのではなく、国ごとに、かつ継続的な変化をにらみつつ、コードを構成する諸原則ごとに個別的に、市場に対する影響ないし市場の感応度、効率性及び改善点などを分析することが重要であるとの認識に至った。 (2)企業経済学、経営学、行動科学、企業倫理にまで視野を広げて、主として欧州におけるコーポレートガバナンスに関する研究動向を研究した。とりわけ、近年の実証研究を通して、企業経営者の行動を、自律的に、株主及びステークホルダーの利益と同期させるためには、やはりマネージング・ボードの構造改革、さらに業務執行者に対する規律付けが重要かつ不可欠であるとの知見を得た。 (3)SOEメソッドの鍵となる情報開示規整の在り方を、我が国の会社法及び金商法を中心に、歴史的な立法改正の動向及び情報開示規整を支える思想的ないし方法論的展開をサーベイした。その中でも、金融商品取引所における自主規制との関係、とりわけガバナンスや倫理規範など非財務情報開示について研究を進めた。また、金融規制の領域を中心に、COEメソッドを補充するものとして、KPI(key performance indicator)を設定し、それによって情報開示の質を高めようとする近年の規制手法の展開をサーベイし、その効率性と問題点を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
私見によれば、コーポレートガバナンス・コード(コード)の諸原則は、①利益相反防止を旨とするエイジェンシー問題に関わるもの、②公益性の要請によるもの、③企業価値増大を促すもの、に大別される。そして、特に③の範疇に属する諸原則は経営者の経営判断に関わる領域なので、当該原則が合理的に見て有益であると経営者らが考えなければ、そもそもコストをかけて真摯に議論するということにはならないのであり、このこと自体をもってCOE メソッドの形骸化を嘆くことは筋違いと言えるし、さらにコードの内容をより強い法的拘束力を以て規律付けようとすることは、経営者の経営判断を制約し、会社の収益力を減殺することにつながりかねない。 そこで、重要なのは、コードの諸原則の内容を精査し、まずは真に企業価値向上に寄与するものであるかどうかを、科学的かつ客観的に見定めるという作業を可能な限り行うことである。そうして、スクリーニングをかけた結果、企業価値向上に資することが疑わしい(したがって、SOEの質が低くなりがちな)ものについては大胆にリストラクチャリングし、企業価値向上に資する蓋然性が客観的に認められるものについてはより精度を高め、SOEメソッドを活用して、会社経営者によるルーティンの改善を企図すべきである。その場合、規制当局は、それを促進することの科学的な根拠や学問的な成果を広く会社経営者と共有し、ベストプラクティスの形成に努めるべきである。 令和元年度は本研究の最終年度であるので、以上のような問題意識から、可能な限り、日本におけるコードの諸原則を運用実態を含めて個別的に精査し、法学のみならず、広く隣接諸科学の成果を参照しながら、より効率的な運用を可能とするリストラクチャリングを提案したい。またSOEメソッドに係る今までの研究成果をまとめて、より一般的なソフトロー研究に対する理論的な寄与をなしたい。
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Causes of Carryover |
必ずしも急を要しない事務用品の購入のために当てた予算が、当該残額分の残額として生じる結果となった。当該額については、本年度、事務経費として改めて執行する予定である。
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Research Products
(2 results)