2017 Fiscal Year Research-status Report
帰化市民の政治行動に対する「国民意識構造の影響」に関する国制史的考察
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17K03543
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
梶原 克彦 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (10378515)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 移民 / 帰化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代のヨーロッパにおける移民を背景に持つ市民(以下、帰化市民)の政治行動を明らかにし、とりわけその要因をホスト社会側の国民意識との関連から考察するものである。現代の欧州移民問題について、移民・外国人の増大と排斥運動の拡大は大きく取り上げられるが、帰化市民の政治行動はほとんど知られていない。移民の第一、第二世代における国籍取得者の数は増大し、いまや有権者の1 割から2 割を占めている。すでに欧州では帰化市民の票を巡り、極右政党を含め、各政党は帰化市民の候補者擁立や移民への寛容策提示など、移民系有権者の関心を引こうと腐心している。 ところで現在の帰化市民の投票行動については「移民に寛容な中道左派政党に対するムスリム系帰化市民と非ヨーロッパ系帰化市民の支持」が指摘されている。この現象は移民のエスニック的・階級的属性から説明され、帰化市民が「同じ境遇の」移民に優しく接するのは当然とも思われる。だが歴史上の事例においても、現代の事例においても、帰化市民がそうした態度を採るとは必ずしも言えず、それどころか逆の態度を採ることもある。また、帰化市民同士、さらには同じエスニック的属性を持つ集団の間でも政治行動は異なっている。本研究では、こうした帰化市民の政治行動の相違を、帰化市民それ自体というよりはむしろ彼等や彼女たちを取り巻くホスト社会側の動きに求めて、国民国家研究や国民意識研究で指摘されてきた動員という側面に注目する。そこで、本研究は、帰化市民の政治行動の相違は、ホスト社会による「民族的な政治動員」の結果であり、ホスト側の示す「われわれ」と「彼ら/彼女ら」という新たな境界線への包摂と排除によって生じているのではないか、という仮説を立て、ホスト社会の示す「われわれ」の境界線と文化集団の政治行動との関係を考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、先行研究の把握など基礎分析を進めた。この作業として、公刊されている資料と先行研究の読み込みを行った。移民・外国人や、マジョリティとは異なる文化集団である少数民族など、非ドイツ系住民の政治行動に関する先行研究の研究状況の把握に努めた。また政府など「受け入れ側」が示した移民外国人政策や少数民族政策などについて、先行研究の収集と読解を行い、マジョリティとマイノリティとの間でどのような線引きが行われていたのか、具体的な政策や国民像を検討した。 次に、基礎分析ならびに具体的考察をすすめるため、資料収集を行った。国内での資料収集は、他大学からの借用・複写取寄せや古書籍の購入を行い、その他に国立国会図書館で2017年10月ならびに12月に資料収集を行った。海外での資料収集は、時間と経費節約のため、2018年2月中旬から3月にかけての休講期間中に行った。先行研究ならびに現代の問題に関する雑誌・新聞記事の収集については、オーストリア国立国会図書館においてこれを行った。また19世紀末の帝政期から大戦間期における少数民族政策や外国人政策に関しては、オーストリア国立公文書館においてこれを行った。 研究成果の公表については、まず研究打ち合わせを他研究会開催時に行い、それまでに得た特に外国人政策・少数民族政策に関する知見を比較し、今後の研究発展に関して示唆を得た。また成果発表としては、2018年度は学術論文の執筆と研究会報告の報告準備を開始すると共に、研究を進めるなかで得られた知見の一端を、他の研究会での報告ならびに論文執筆において公表した。また国民への発信として、明るい選挙推進協会や松山市坂の上の雲ミュージアムにおいて講演をおこなうと共に、教員免許状更新講習会や高大連携事業での出張講義でも帰化市民の政治行動についても言及し、成果の還元に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は前年度に引き続き、先行研究の読み込みを行い、移民・外国人政策や少数民族政策などの実施状況に加えて、具体的な政治動員の姿を把握していくと共に、オーストリア以外の事例収集にも努める。この分析に要する文献は、新刊本や古書籍の購入や借用・複写によって入手する。 また資料収集については、国内では国立国会図書館を中心に、海外ではオーストリア国立図書館ならびにオーストリア国立公文書館を中心にこれを進める。収集時期は、国内資料集は時間の都合上、夏季休講期間中に、海外資料収集は経費節約のために春季休講期間中に実施することとする。 研究成果公表として、研究会を実施することを計画している(開催頻度は年に一~二回)。今年度行う他の研究会で日程調整を行い、将来の共同研究へ向けた活動を開始する。また他の研究会での報告機会が有れば、これを積極的に利用する。さらに、研究成果をまとめた学術論文を紀要や学会誌に投稿し、公刊する。
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Causes of Carryover |
2018年2月に実施した海外資料調査において、複写費が予定よりも安価であったため次年度使用額が生じた。翌年度の資料調査時に複写費として使用する。
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Research Products
(6 results)