2019 Fiscal Year Annual Research Report
The Political Behavior of Migrants and the National Consciousness of Host Society
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17K03543
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
梶原 克彦 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10378515)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 移民 / 帰化市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代のヨーロッパにおける移民を背景に持つ市民(以下、帰化市民)の政治行動を明らかにし、とりわけその要因をホスト社会側の国民意識との関連から考察するものである。 帰化市民の投票行動については「移民に寛容な中道左派政党に対する帰化市民の支持」というパターンが指摘されており、帰化市民が「同じ境遇の」移民に好意的な政党に共感するのは当然とも思われる。本研究が考察対象としたオーストリアの事例でも、確かにトルコ系の帰化市民にはそうした様子が観察された。しかし、歴史上の事例においては、例えば同化ユダヤ人が移民としてやってきた「同胞」のユダヤ人に冷ややかな姿勢を示したように、マイノリティが必ずしも「同じ境遇の」移民を受け入れに共感を示すとは限らない。実際、セルビア系の帰化市民の間では、移民排斥政党とされる自由党への支持が非常に高かった。また2015年ウィーン市議会選挙の事例では、確かに帰化系市民全体では中道左派政党である社民党への支持が最も高かったものの、低所得者層の場合、自由党への支持が最も高かった。 ウィーンの帰化系市民による自由党支持は労働者階層によるところが大きいという点で、実のところ一般投票者と同じような傾向をもっている。その意味では帰化市民にホスト社会の国民との政治行動の違いはないかもしれないが、一方で、帰化系市民の間では、トルコ系の背景を持つ者とセルビア系のそれとのように、そのバックボーンによってとくに右翼ポピュリズム政党の政治動員に相違が生じていた。またトルコ系住民はキリスト教保守主義の人民党を忌避する傾向にあり、その理由の一端が同党の宗教的背景にあるという指摘もある。これらを踏まえると、帰化市民の政治行動には階級的な利害関係の反映であると同時に、アイデンティティ・ポリティクスの一面もあり、ホスト社会の政党が示す社会イメージへの自己同一化も見て取れた。
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Research Products
(2 results)