2017 Fiscal Year Research-status Report
比較優位の決定要因-付加価値輸出の実証分析を通じて-
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17K03729
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Research Institution | Tama University |
Principal Investigator |
下井 直毅 多摩大学, 経営情報学部, 教授 (40409818)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 哲也 拓殖大学, 政経学部, 教授 (20603468)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際経済学 / 比較優位 / 付加価値貿易 / パネルデータ分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「付加価値貿易から見た比較優位の決定要因」は、国際的な生産工程間の分業が構築される中で、比較優位の決定要因を明らかにすることを目的としている。平成29年度における研究では、服部・下井(2016)の研究のアップデータを試みた。服部・下井(2016)では、欧州委員会が作成した国際産業連関表(WIOD)を用いて、1990年から2010年にかけての40か国、35の産業全てについて、付加価値輸出を推計し、世界全体の同産業に占める輸出割合と比べて、どの程度大きいかを示す顕示比較優位指数を算出している。WIODのデータを確認したところ、これまで2010年までであったが、2014年まで取れることや、取り上げられている国の数や部門が従来よりも多いものとなっていたため、まず、新たなデータを用いた付加価値輸出額の大きさを計測した。部門については、これまでは35部門であったものが、56部門についてデータを取れるものとなっていた。こうした新たなデータ基づいて「顕示比較優位指数」を求め、従来の比較優位の決定要因についての実証的分析と比較し、比較優位の決定要因の変化を検討した。本研究課題の興味深い点としては、まず、通常の輸出総額で計測するのではなく、付加価値輸出ベースで比較優位指数を求めているということである。また、2008年のリーマンショックの前後で比較しているということである。その結果、日本の国際貿易における比較優位を示す部門としては、自動車の製造部門では、リーマンショック前後を比較すると、輸出総額では日本の比較優位の程度に顕著な違いは見られないものの、付加価値輸出ベースで計測すると、リーマンショック以降では、低下傾向にあることが分かった。(注:服部哲也・下井直毅(2016)「付加価値貿易から見た比較優位」Discussion Paper 144、pp.1-25,日本経済研究センター)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、平成29年度においては、国際産業連関表(The World Input-Output Database:WIOD)のデータを用いて、付加価値貿易における付加価値輸出の金額を算出し、Stata(StataCorp社によって開発された統計分析のソフトウェア)により、付加価値貿易から見た比較優位の決定要因について、実証分析を行なうというものであった。その点からすると、やや遅れていると言える。ただ、進捗状況が遅れた理由としては、用いようとしているWIODのデータが、昨年度から大幅に変更されたことが挙げられる。まず、取り上げられている国の数が40か国から43か国に増えたこと、次に、取り上げられている部門が35から56に大幅に増加し、細分化されたことが挙げられる。しかし、Stataによる分析はまだできていないものの、更新されたWIODのデータを用いて、付加価値貿易における付加価値輸出の金額を算出し、被説明変数となる付加価値輸出額で見た顕示比較優位指数を算出することができた。平成30年度では、Stataによる統計分析を行い、さらに今年度当初から予定している、比較優位の差を産み出している要因の分析や比較優位と雇用の関係の分析を試みることとし、日本国際経済学会での学会報告や査読付き学術雑誌への投稿を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、Stataによる統計分析を行うことに加え、以下の(1)と(2)のように、大きく2つのトピックスを中心に研究を進める予定である。 (1)平成30年度は、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)への関わり方と比較優位の差を産み出している要因の関係を分析する。GVCへの参画の程度を示す指標として、経済協力開発機構(OECD)が算出している「GVC参加指数(Global value chain participation index)」がある。服部・下井(2016)では、付加価輸出とGVC参加指数の間に正の相関があり、両者の相関が徐々に強まっていることを確認した。本研究では、さらに踏み込んで、GVCの「長さ」を推計し、GVCに参加の仕方が、各国の比較優位にどのような影響を与えるのか実証的な分析を通じてあぶりだす予定である。また、こうしたGVCへの関わり方についても政策提言を試みる。
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Causes of Carryover |
今年度、WIODのデータ更新による産業部門の変更に伴い、新たに付加価値貿易で見た顕示比較優位指数を推計し直す必要が生じた。そのため、付加価値貿易で見た顕示比較優位指数が示す比較優位の決定要因について理論的、実証的に十分に検討を行って、説明変数となるデータを整備し、その決定要因を推計するところまで十分位到達できなかった。結果として、付加価値貿易で見た顕示比較優位指数が示す比較優位の決定要因について参考文献等の購入が当初予定よりも少なくなった。 今年度は、日本国際経済学会での報告論文の作成、学術誌への投稿などを行う予定であり、科研費については、参考文献の購入、学会への参加費、投稿にかかる費用などに、計画的に使用する予定である。
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